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□雨ト破壊ノ理論
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ぽつり、ぽつりと、頬や額に冷たいものが落ちてきて、目が覚めた。
半ば開いた瞼にもそれは降りかかり、反射的に再び目を閉じた。
そして鼻孔に触れたどこか甘い水の匂いに漸く、雨が降っているのだと知った。



大木の枝に身を横たえてひと眠りしていたフリーは、転げ落ちぬよう慎重に体を起こす。その間も、上方の枝に茂った葉の隙間から雨粒が零れ、常人よりも温度の高い肌をほんの一瞬間冷やした。

太陽が猛威を奮うようになってきたこの時期、今日は珍しく朝から少しばかり過ごしやすかった。一面灰色の曇り空が太陽を隠した所為だ。フリーは洗濯物係であるクロナに声を掛けておくのを忘れなかった。
どうやら無駄にはならなかったらしい忠告に我ながら安堵する。

頭上で木の葉を叩くぱらぱらという音が強まっていく。弾かれて落ちてくる滴も量を増し、フリーを囲む大気がすっかり湿度を含んで重くなっていった。
木の葉の合間から雨空を見上げる。夏場には珍しく浮かない顔をした空。
たとえ暑くとも、フリーは突き抜けるような青空の方が好きである。



「ん」

雫の音ではない、もう少し力のある音が尖った耳をくすぐった。意識は半ば自然と湿気った空気の中を走り、探す。




雨が笑う声が、聞こえた。



少し身を屈めて地上に視線を巡らせる。
雨が笑うはずが無い。はっきりと聞こえた笑い声は、意志ある誰かのものであるはずだ。
しかし今居る位置の高さが視界を制限し、茂る木の葉が目線を邪魔して、ひどく狭い範囲しか見下ろせない。もっと広く探すには、この場から降りねばなるまい。

既に、雨の勢いは耳にざらつく質感を残す程になっている。
ずぶ濡れになってしまうと、後から色々と面倒だ。このままアジトへ戻れば床を濡らし、メデューサに小言を言われる。



ああ、それなのに
雨が誘うように笑っている
楽しげに弾んでいる
水の礫(つぶて)に打たれる心地好さを思い出させる



(仕方がない…)

元々本能に従う方を好むフリーは、そんな自分の性質にも苦笑しながら枝を降りた。

湿った夏草の上に降り立ち、大木の陰から歩み出る。
木の葉に遮られていた分の雨粒が、一斉にフリーを捉えた。

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