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□だから春には封筒に
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夕方、買い物から帰ってくると、自室の机の上に封筒が置いてあった。
買い物に行く前には無かったのだが、留守番していたソウルが郵便受けから持ってきたのだろうか。あれで気の利くところがあるパートナーだ。
とりあえず手に取ってみる。
何やら、感触がふかふかしている。紙の質感ではないし、何より平らでもない。重さは紙とそんなに変わらないようなのだが。
鋏を取出し、中に入っている手紙(?)を切らないよう出来るだけ端っこを細く切る。
すると、中身の体積で封筒の口がふわっと開いた。
封筒の中に、桃色の雪のようなものが詰まっていた。
よく見れば、それは桜だった。それもあの儚くて小さな薄いものではなく、花びらが多くてぽってりとした花が丸ごと、三つ。
ひとつ、慎重に取り出して掌に乗せる。雪のように脆く、綿のように軽く、絹のように滑らかだ。
まだ微かに、春の空気が漂ってくる。
確か、八重桜という種類だ。桜の中でも、この品種はこの辺りでは滅多にお目にかかれないはずだった。
何となく頬が熱くなる。
しかし、こんな粋なことをする人物が周りに居るだろうか。残念だが思い当たらない。
とりあえず、机に残りの花も広げようと、封筒を逆さまにした。
「あ」
花に絡まるようにして、何か細いものが一緒に机の上に舞い落ちた。
花びらを傷つけぬよう気を付けながら、指先でそおっと摘み上げる。
毛、だった。色は黒。
髪の毛かと思ったが、人間の毛髪にしては手触りが固い。
どちらかと言えば、獣の毛のような。
「……………………」
まさか。
(いや、ブレアかもしんない)
現実逃避じみた思考は、一本の毛から連想される想像のワンシーンに簡単に押しやられる。
満開の、たわわに咲いた桜の枝を、長身のマッチョが見上げている。
武骨な手が、指が、潰さないようにそっと花を摘む。
手にした美しい花を鼻先に近付け、犬のように鼻を利かせると、柔らかな香りにうっとりと−−
「ぎゃああぁぁぁ」
熱かった頬だけでなく全身が寒気に襲われて、頭を掻き毟る。
おぞましい程似合わない光景だ。
しかも。
男が女に花を送るという事は、つまり。
「ぎゃあああぁぁぁぁぁ」
マカはもう一度絶叫した。