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□緑の映画
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「おい、こんなとこで寝てると風邪引くぞ、マカ」
「ん−−あ、うん…ごめん…」
あまりにも自然に掛けられた声に意識を取り戻し、マカはゆっくりと机から顔を上げる。枕にしていた腕に押しつけられた額が、じんじんと痛い。赤くなっているのだろう。
勉強中に寝てしまうなんて不覚だ。ソウルでもあるまいし…と、額の痛みも合わせて顔をしかめる。
「夕飯はちゃんと食べたのか?」
「うん……サンドイッチ食べたから、大丈夫」
視界が水の中に居るようにぼやけている。目を閉じて瞼を揉むように押さえた。今日はもう限界だろうか。
「もっとちゃんとしたもん食え。育ち盛りだろ?」
「わかったよ。心配しないで−−−−」
ぎょ、と閉じていた目を開く。
全く今更だが、ソウルの声ではない事に気付いたのだ。
その証拠に、目の前の机につかれた手は、同年代の少年のそれとは明らかに違う。ゴツゴツしたでかい手。
「−−なに…何してんのオマエ…」
振り仰いだ先では案の定、黒い瞳と魔方陣の眼が見下ろしてきている。突然の出現にかなりの至近距離も相まって、驚きが過ぎて声も満足に出ない。
「様子を見に来たら、お前さん寝ていただろう?風邪を引くと思って起こしたんだ」
「違ぇよ。何で当たり前の顔して私の部屋に居んの」
「窓から入ったからだ」
「それも違−−ちょっと待て。鍵は?」
「開けた」
「壊したの!!?」
窓の方を確認したかったが、間近にある男の肩しか見えない。それを察してか、魔眼の男は身を引いた。
窓はだらしなく開かれているが、ヒビ一つ入った様子は無い。
「俺がそんな野蛮な男に「見える」
「………随分だな…」
マカの即答ぶりが不服そうに顔をしかめると、武骨だが爪の長い指を窓へ向ける。
「ウールッフウルブスウルフウルブス」
低い声で呟いたかと思うと、風もないのに窓がカタカタと震え、勝手にバタンと閉じた。律儀にも鍵まで落とされる。
「…そんな器用な魔法使えるんだ…」
「俺はこう見えて繊細だ」
マカはギャグだと思いたかったが、男は至って真剣だった。
確かに左眼の魔眼は魔女の女王のものだ。そのくらいは造作もないのかもしれない。