◇BL小説*長編◇

□もう一度【第1話】
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九州にいる手塚のもとへ、関東大会決勝を録画したビデオが送られてきた。
もちろん、すぐに全試合に目を通す。

全員の戦う姿が、早く東京へ戻らねばという思いを掻き立てる。


そして何よりも、
菊丸英二に会いたい。

驚かせ、怯えさせ、傷つけた末にやっと手に入れた、誰よりも大切な恋人。

自分が九州に行くと告げたとき、あの大きな瞳いっぱいに涙を溜め「自分もついていく」とわがままを言った英二。
本当は、つれていきたくて仕方がなかった。
常にそばにおいていないと、心配だった。

会いたい。


+++++


英二は自室の床に寝転び、考え事をしている。
手塚のところへ、もう関東決勝のビデオは到着しただろうか。
立海相手だったとは言え、自分は負けてしまった。

手塚はどう思う?
幻滅されたら?
怖い。
でも、知りたい。
こんな自分でも、まだ好きでいてくれるのか…。

なにより、声が聞きたい。
自分のすべてを包み込んでくれるような、優しい声を…。

英二は、携帯に手を伸ばした。


+++++


手塚の携帯が鳴る。
ディスプレイを見ると、画面は大石からの着信を知らせていた。
「大石か?手塚だ」


+++++


英二の携帯からは「ツーツー」という、相手が通話中である事を報せる音が聞こえていた。
「む〜」
思わず唇を尖らせてしまう。
もちろん、手塚が自分だけのものだなんて思っていない。

ただ、やっと勇気を出して電話をしたのに、手塚が他の誰かと話しているのだと思うと、少し面白くないのだ。
「なんだよな」
英二が携帯をベッドへ投げた直後に、着信音が鳴った。
「わ!わ!」
反射で慌てて携帯を拾う英二。
「も…もしもしっ??」


+++++


「変わりはないか?大石」
『みんな元気だよ。桃のケガもすり傷だし、英二も不二もその後何ともない』
「そうか」
『手塚は?治療は順調かい?』
「ああ」
『ならよかった。じゃあ、またな手塚』
「ありがとう、大石」
電話を切ると、手塚はビデオを再生させた。
英二と大石の試合を巻き戻しては何度も観る。
「英二…」


+++++


『あ、英二?』
「不二じゃん。どったの?」
電話の相手が手塚ではなく、がっかりしてしまう。
どうやら不二は、数学の宿題の範囲を確認する為に電話をかけてきたようだった。
『うん、助かったよ。ありがとう英二』
「うんにゃ。いいよん」
『じゃあまた学校で』
「うん」
『あ、それから…』
「ん?」
『悪かったね、手塚じゃなくて』
「へっっ!?」
突然の不二の言葉に、おかしな声を出す菊丸。
『くすっ。何でもないよ』
意味深な笑いを残し、不二は電話を切ってしまった。

不二は、自分と手塚の事を知ってるのかもしれない。
別に、悪い事してるわけじゃないんだけど…。


英二がまたひとりで考え事をしていると、携帯電話が鳴った。
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