Spiral

□Denial
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嫌だ、の言葉を普段からなんの干渉もない人に言うのは実に簡単。

「白鐘、今日暇?暇ならさ…」

「暇ではないので、失礼します」

真夜中テレビに映ってからの僕は、放課後に何かと男子生徒に誘われる。が、大体は断る。
今日なんかは放課後、教室から一歩出た時に後ろから話掛けられた。

道の邪魔だろうから、僕は徐行して廊下に出て扉の位置を空けたが、その話掛けた男子生徒はそのまま扉の位置に立ったまま。

(……通行の邪魔だろうに)

そんな事を考えながら、用件は、と男子生徒の顔を見上げ、促して今に至る。
その男子生徒なニコニコとした顔には寒気しか感じないし、何より本当に暇ではないからさっさと終わらせて欲しい。

ジュネスに集まるか、それか祖父の待つ家へと帰って読み掛けの小説を読んだり、今日の数学でよくわからなかった点を復習しても良いし、探偵としての助言が必要と手紙だって来ているかもしれない。
だから、大方ここで、こういったくだらない類の話をしている程、の意味の付いた「暇ではないので」が出てくる。
それから、レベルの低い謝罪をくっつけたその文面でさよならを告げる。

……だが、干渉のある人ではそうもいかないのが人生。
自分の生活をよく知っているし、それにその人からあるだろう断った理由の質問等にも困る。
断った理由なんかは親しくなくとも、一応言うが、私生活を知る人よりはかなり騙し易い。
私生活を知られていては、つじつまが合わない事もしばしばあるだらうし。

…第一に、自分はかなり干渉し合ったあのメンバーに誘われては断れない。
否、断る理由も気もない。

「そんな事言わないでよ、合コンあるんだけどさ…」

「………だから、暇ではないと…」

たまにいる、こういったしつこく食い下がろうとしない誘い人。
そんな強行をしようとしている様も、もう溜息が出てしまう。
こんな場合、大体出す断る方法は「探偵の仕事が」や「先輩達と用事が」だ。
嘘になる場合がたまにあるが、この二つはやはり皆断り切れる。
探偵の仕事なんて、一般人では内容は計り知れないし、先輩達との用なんて邪魔をしては厄介だから。

さて、今日はなんて言うか。

そんな風に考えていたら、前方に陰が出来た。
前にいる、この小さめな男子までも陰で隠してしまうくらい、大きな背丈。
ちょっと考え、すぐに理解する。

「直斗、今日もとりあえずジュネスに集合だってよ…、……どーした?」

「……巽君」

「げっ…巽完二」

苦悩していた自分の背後にいた、自分よりも、この男子生徒よりも大きな背丈の同級生。
その巽君を見た瞬間、男子生徒がかなり嫌そうな顔をして「じゃあ!また!」とよろめいた声のまま下駄箱へと走って行った。

「……なんだ、あれ」

「……助かりました」

そうだけ言い、何食わぬ表情で自分も下駄箱に行く。

助かった。変に嘘を付く事も回避し、更にあっちから退散したから悪いのはあちら。

僕と巽君が仲良い、という噂は結構あった。
それは、色恋沙汰とかそんなんではなくて、先輩を交えた友人関係の意味だったので僕は別にそれを制したり、拒否したりだとかはしない。

きっと、あの男子は今ので僕が巽君と友人関係があると理解しただろう。
もう、あまり話掛けて来ない筈。

ぼんやり考えながら下駄箱に向かう足を遅める。
巽君が背後からついてくるのが足音でわかったからだ。

「今日は探索なさそうだってよ」

「そうですか…わざわざありがとうございます」

遅めた理由は、この人が親切をしてくれたから。
この人はわざわざ伝言を伝え、更には先程の男子を追い払ってくれた。
だから、歩幅を合わせる為に遅めた。

この人は、外見とは違い優しい。

まあ、あまり接しない人には分からないだろう。

先程のアレの理由を模索しない辺りだとか。
きっとこの人は分かっていないだろうけど、それを聞き出そうとはしない。
きっと、気を使っている…空気をよんでいる。

皆が巽君の優しさに気付かないのは、巽君も生徒達も、互いに仲良くはしたくないと思っているから。
互いに親しむのが「嫌だ」と態度で言っているから。

(……やっぱり、嫌だ、は他人ではないとダメだ)

この人と生徒達…よしんば先生まで、隠す事なく態度で巽君との親しみを嫌だ、と言っている。
ちょっとした弾みで、嫌だを乗り越えなければ親しめない。
そういった点では、僕も巽君も似ているのかもしれないけど。

(………今日はいつもの何倍も頭がモヤモヤしてるな…)

この学園に来てから、様々に心境が変わっている。

下駄箱で上履きを脱ぎ、上履きをしまう為に下駄箱を開ける。

バサッ。と紙類が落ちる音がして、溜息をつく。
同時に、ロッカーが向こう隣と離れている巽君が、履いている靴を直すように爪先部分ををとんとんと蹴りながら、こちらに来た。

「……手紙?」

「はい」

また、これ。
こんなドラマでしか見た事ない展開。
本当にあるとは。
この学園に来てから、色々と変わった。

今日は三枚。
男二、女一といったところか。
数を数え、何に気を移しているのやら、と苦笑。

何がしたいのか、理解不能だ。
思いを告げて、それで?
大体僕の知らない人から手紙が来る。
それっていうのはつまり、僕の表面上の情報……顔が好きなのではないか?

この、女顔。

僕があまり好きではない、顔。
女顔に生まれるなら、せめて男で女顔が良かった、なんて思ったりしてしまう。

表面上情報に惚れた人なんて、願い下げだ。
第一、付き合ってどうする。
というか、思いを告げたいのなら直接伝えればいい。

(ふざけてる……)

乱暴にその放置していた手紙達を拾い上げる。

手紙の表面も見ずに、それをバックに押し込んで、巽君を見上げた。

驚いている感じの顔。
それから、さっさと入口の方を向いた。

「先輩達、待ってるだろーからさっさと行こーぜ」

「…はい」

手紙の事は、聞かれない。
どうしたんだろう、こんな気の使える人だったのか。

……いや、自分が巽完二という男をよく知らなかっただけか……。

仲良いつもりでいた。
性格もこうであろうと考えていた。

(…僕はダメだな…)

相手の事をよくしらないで、親しんだように接する。
これではあの男子や手紙を出した人達となんら変わらない。






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