Spiral

□A word of "It is unrelated"
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初恋は、叶わない


昔、婆ちゃんから聞いた言葉。

まだ7の俺に、よく分からない昔の話を交えながら初恋について語ってくれた

今はもう居ない婆ちゃんは、初恋の失恋を語ってくれていた

戦争時がうんたら、生活がうんたら離ればなれでどうたら

当時の事ぁよくわからなかったが、まあ…それが辛かったってのは小さい俺にもよく分かった。





「……あ?」

ジュネス。
珍しく探索のない今日は、皆それぞれ自由行動をしている。

花村先輩が、「りせとアイツいるから一緒に出掛けないか」と電話をしてきたが、今日はジュネスでボビンと綿を買う予定だったから断った。

ジュネス、のワードを出せば、普段は「ノリが悪い」等と悪態つく花村先輩が、「まあいいか」と意外にもあっさりと了承してくれた。

やはり自分の父が経営しているから、なんだろう。
気持ち、簡単に断られるより良いような気がしたのだろうか。

今現在、俺は服のコーナーで冬に向けて服を見ていたのだが

「……あれ、直斗…だよな」

服のコーナーから垣間見えるエスカレーター。
それに乗って4階に行ったのは、紛れもなく直斗だ。

「……」

4階は家電製品コーナー。
それより上はもう駐車場混じりの屋上になっている。

「……今日は探索ねぇよな…?」

もしかしたらメールで連絡があって、探索がやはり有りになったのかもしれない。
手に持っていた服を元の場所に戻し、ポケットから携帯を取り出す。

「………?」

着信も、メールもない。

では、只単に直斗が家電製品を見に行ったのかもしれない。

「………」

偶然を装って、見に行く。

今頭に過ぎるのはそれだけだ。

小さく頷き、携帯をポケットにしまりつつエスカレーターへ走って行く。





「な…お………、あーあー……」

間に合わなかった。

エスカレーターを上り、すぐ横を真っ直ぐ行って左。
走って行き、く、と左を向いた時には、もう人気のない空間にある見本のテレビは、画面を波打ちさせながら一人の人間を送り出した後だった。

「……一人で、か?」

今は霧ではないし、別に危険ではないだろう。
ペルソナもある。

クマが出しっぱなしにした出口用のテレビもあるし。
アイテムもある程度持っているだろう。

「………でもなぁ……」

この得も知れぬ不安は、きっと確証があるから過ぎっているんだろう。

辺りを見回し、テレビの画面に手を伸ばす。

画面が波打ち、掌が画面に入り込んだ。

その手を画面の端に支えさせ、そのまま頭ごと入る。

………やはり、少し気分は悪い。






「直斗……!?」

真っ先に向かった先。
直斗は居た。

「…巽君…?」

つまらない空。
赤くて黒くてグルグル渦巻いて。
なんの陰かわからねぇけど、建物の陰が浮いてる。

その空を、秘密基地そのものな建物の入口で、直斗はぼんやりと眺めていた。

「おま、…んな所で何やってんだよ…今日は探索ねぇだろ?」

「……そうですね、…ですが…貴方も此処にいるのだから偉そうには言えないんではないですか」

距離は1、2m程度。

なのにこの敬語一つで距離がかなりあるように感じる。

直斗の敬語は、突き放すものがある。

疑問詞のないそれは、自分が赤の他人のような、それでいて自分の立場が思い知らされるような。

「俺ぁ、お前を見付けたから後を追っただけだ」

「…そうですか、それで…何しに来たんですか」

放っておけ、と言いたげな目。

それを気にしないように一呼吸して、無理に口を開かす。

「……危ねぇだろが、一人じゃ」

「……大丈夫ですよ。…僕をなんだと思っているんですか」

「そりゃ……」

女だし。
言いかけて、口ごもる。

少しの間が空き、直斗の表情があまり良いものではなくなった。

今は何を言っても"疑い"のフィルターが掛かった発言が直斗の頭に入るだろう。

早めにしなくては、と唇を噛んで口を開く。

「っ、………もしテメェーが怪我しやがったら、明日の探索に支障が出るだろうがよ。考えろ……足手まといになるだろ」


「………」


そう言われるとは思っていなかった、という顔。

直斗が1番自分を苛めるとは思わなかった相手。
それが完二だ。

好意を抱かれている、とまでは気付いていないが、自分を支えようとしているのは分かっていた。

だから、自覚こそはないが完二にキツく言われた今、かなり不安がっている。


「そう…ですね、帰ります」

「……そーだな……」

そう言い捨て、俺はさっさと踵を返す。
そこでようやく、直斗に先程までの距離がない事が分かった。

「……送って行ってやるよ」

「…………いいです」

背後に居る相手に言えば、また距離を感じさせる声色が返った。

つい先程までは、少しだけの間だがこんな距離はなくて……足元にうずくまっている感覚があったのに。

「危ねぇーだろ」

「…………此処からは安全ですから」

もう、すぐに出口用のテレビだ。
それに気付き、自分の頬に苦笑が浮かぶのが分かる。

「それに、貴方は僕となんら関係ないでしょう」

「………………………」


なんら、関係、ない。

その言葉に唖然としてしまう。

なんら。

なんら、とは全く、だ。

(………俺は、他人…?)

愕然としている内に、直斗はテレビに駆け寄り出て行ってしまった。

「………他人…」

女か、と言いたくなるくらいウジウジしている自分。

他人、は赤の他人ではない。
仲間、は他人ではない。

「………ははっ、…馬鹿みてぇー…俺」

どんだけ傷付いてんだ、って。

胸元の服を握り締め、唇を噛む。

「初恋は、叶わない」

婆ちゃんが言ってた、アレだ

「……初恋の失恋は、付きモン…」

言い聞かせるそれ。

自嘲したように息をはき、前を向く。

もう泣いていない事が分かったら、そのままテレビを出た。

不思議な感覚は、やはりまだ慣れやしない。






「………あ、巽君」

テレビから出て、辺りを見回して。

波打つテレビを背にして、眼前の人間を見る。

「………な…おと?」

「遅いから心配していましたよ」



………これはまだ大丈夫なんでしょうか、

…死んだ婆ちゃん



→....後書き

 

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