Spiral

□【御題】Because it is not said it is weak
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「大丈夫?直斗君。はいお茶…」

「……すいません、こんな…」

天上楽土の階段フロア。

今、俺達は菜々子ちゃんを助けに此処に来ている。

その道中、直斗が獣形シャドウに強く攻撃され、道端の塀に頭を打ってしまった。

異常ステータスで混乱していた直斗は、更に頭を強く揺らしてしまった。
今はえぐられた肩を天城先輩に回復して貰いながらも、直斗がまだ覚束ない足取りだった為休憩をしている。

階段になっている樹木の下。
それを背にして直斗は寄り掛かりながら身を休めている。
冷や汗すらかいている直斗は、無理にお茶を飲み下して一息付いた。

「悪い、カエレールが無いんだ…」

そう濁りながら呟いたのは、リーダーである責任をかなり感じている様子の甘音先輩だ。

「謝らないで…下さい…、僕がお荷物なんですから…………早く、菜々子ちゃんを助けなきゃならないのに、こんな…」

置いてって下さい、と発した直斗の声には、天城先輩を始め俺まで眉を伏せてしまう。
それに、甘音先輩は「大丈夫だから無理するな」、とだけ言って直斗の帽子を深くさせて眠りを促していた。



「……じゃあ、私と甘音君はその辺りを探索しに行こうか」

パンパン。
小気味よい音がしたのは、直斗が寝たと確認出来た後だ。

その音がスカートに付いた砂やらを叩いて落とした音だと気付き、俺も即座に立ち上がる。

「ドロン玉はあるしな…」

同時だったのか、甘音先輩も既に立ち上がって道具袋を確認していて。

そんで、気付いたら二人はもう階段フロアから出ようとしていた。

「…え…?俺が留守番すか?」

当たり前、と言いたげな表情で甘音先輩は外に言ってしまった。

それから、厳かに歩いていた天城先輩が手を組みながら、厳しい顔でこちらに振り返る。

「……?」

なかなか口を開かない先輩をなんだ、と眺めていれば、天城先輩はカツカツと歩いて来て、直斗の前に立ち尽くしてしまった。

暫くの間直斗を見下ろし、俺から直斗を隠すように軽く手を広げる。

「襲っちゃダメだよ?」

「なッ、…おそ…!?」

「じゃあ私、釘は刺したから」

カツカツカツ。
また天城先輩は歩き出し、そのまま階段フロアから出て行った。

「……おそう…」

いやいやいやいや。

襲うだなんて、ない。

(…つか、あの人は何をサラリと…)

天城先輩は、純粋で無垢に見えるが案外違う。大胆だあの人は。
噂じゃ"合コン喫茶"に一票入れたらしいし。

(襲う………)

じー、と直斗の顔を上から見てみる。

「………、…ッ」

帽子で伺えない顔を、暫くは見ていたのだが…なんだかいたたまれなくなったから、顔を反らす。

「…アホらしいっつの……」

言い聞かすようにしながら、ずるずると直斗の隣に座り込む。

そう、アホらしい。

女一人に振り回されて、揚句男らしくなく焦って照れて。

(こんなんで直斗に振り向いて貰えるわけ……)

そこで、気付く。

結局自分が直斗の理想に近付こうと、振り回されている事に。

「…俺ぁアホだな…」

「……ん、………」

「おわっ、と…?」

呟いた瞬間、隣の直斗が跳ねたように素早く頭を上げた。
それに驚き、つい半腰に立ち上がってしまう。

「巽…君?……皆さんは…?」

「先輩達はその辺探索しに行った」

「そう…ですか」

はぁ、と安堵の息を吐いた直斗は、肩の力を抜いて再び頭を下げた。

「……まだ頭クラクラすっか?」

「…ええ、少しだけ……」

尋ねた問いに返すのも辛そうに見える。
首は冷や汗伝ってるし。

何より否定したり遠慮や考慮しない所が既にヤバそう。

なんか汗拭くモンと頭冷やすモン、と辺りを見回す。

あるのは、さっき拾ったアイテム数種。

そん中から数個手に取り、直斗の前に屈む。

「ちょっと勿体ねぇけど…」

本当に辛いのか、直斗は色々と行動したり話したりしている俺をよそに、何回かに分けた息をしている。

ポケットから取り出したハンカチ。

それに、先程拾った清めの水を遠慮なく掛ける。
ダバダバと結構水が地面に滴ったが、気にせずそれを軽く絞り、直斗の頬に付けてやった。

「っ、………」

「っ!…悪ィ、冷たかったか…?」

「……いえ、…気持ち良いです」

「…そうか…」

一瞬跳ねた肩。
離し掛けた手を、弱々しい手に掴まれてしまったから、すぐさま離せなかった。

頬に付けたまま、直斗の帽子を外してやる。

「ハンカチ、デコに乗っけんぞ…」

「あ、はい…」

ぶっきらぼうに言ってしまったが、気にしていない直斗はそのままズルズルと体制を低くした。

少し辛そうにしながらも髪を分けたその額に、濡れたハンカチを乗せる。

「……ありがとう、ございます……大分楽です…」

「……なんか他には?どっか痛いとかよ…」

「いえ、大丈夫です……」

ぎゅ、と軽くつむられた瞼。

それが辛さからに見えたが、あまり無理に聞き出さずにする。

そう考えた少し後に、直斗の控え目に小さく口が開かれた。

「あの、…巽君」

「ん?どした?」

「あの…膝…、ッ」

「……?」

膝。
言ってから、直斗は辛そうに唸り始めてしまう。
それを無理に促そうとはせず、言おうとするのを待つ。

「…あの……膝、まくらを……して貰えませんか…?……体制が、辛いんです」

「……膝まくら?んなんでいいのか?」

尋ね返せば、直斗はかなり恥ずかしそうにした。

確かに地面には石が錯乱しており、寝ては辛そうだ。

甘え。
最近、直斗は仲間に甘えが出て来た。
以前みたくつんけんしていない。

それを嫌がる必要なんて0だ。



「………おら、頭下げていいぞ」

片足だけ胡座をかいた俺は、その胡座をした方の足に直斗の頭を下ろさせた。

俺が預かっていたハンカチを、再び直斗の額に乗せてやる。

「………ありがとうございます…」

「……もっかい寝てろ、先輩達がカエレール見付けてくっからよ」

「はい……迷惑かけっぱなしで、すいません……」

呟いた直斗は、右腕で目元を隠している。

その目は、悲しさなのか悔しさなのか。
それを確認したくなるのは、直斗が好きだからなのか。

帽子を外した直斗を眺めるのは、始めてかもしれない。

文化祭ではロクに見る事もできなかった。

「自分が弱過ぎて…笑えます」

ふと呟いた声。
本当に笑いが混じったそれに、ついついキツ目な顔になってしまう。

「強がってるけど、…全然ダメですね………全然強くないんだ…僕は……」

笑い半分だった声色。
少し震え始めて、唇を噛んでいるのが分かってしまう。

その弱さ。
滅多に見れやしないそれに、笑み混じりの息を吐いて、抵抗のない頭を撫でてやる。

「……お前見てっと……あれだ、オズの魔法使いのライオンを思いだすな」

「………そうですね、…僕は肝心な時に勇気がない……勇気が欲しいのかもしれない…」

はは、と肩で息を交えた笑いが力なく吐き出された。
それが、紛れも無く自嘲気味だったのに、眉を伏せる。

「……お前、さては童話は読まねぇクチか?」

「……え?」

「推理小説もいーがよ、童話も読めよな」

「…?」

意味が分かっていない様子の直斗の頭を、数回ポンポンと撫でて遣る。

そのまま後ろに手を着いて、持っていた直斗の帽子を直斗の胸元に置いた。

「………帰ったら本、貸して遣るよ」

「………はい。……ちゃんと読んでみます…」

素直な返事に、満足気な笑顔を返してやる。
これで、話掛ける口実が出来た。


オズの魔法使いのライオン。

確かに、ちょっと遠回りだったのかもしれない褒め言葉。


…………直斗がその本当の意味を知ったら、俺と直斗の距離は縮むのだろうか。




先輩達が帰って来た時、俺らは一緒に眠りこけてたとか。



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