ドルチェ
□legato
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雨ばかり降る梅雨の時期。
店内から外に目を遣ると、しとしとと雨が降っている。
あまり人が通る道ではないけれど、道行く人が様々な色の傘を眺めているのは少しだけ楽しい。
窓際の席で外を眺めながらアイスティーを飲んでいると、目当ての人が黒い傘を片手にお店に近づいてくるのがみえた。
すぐに私に気付いてくれたツナさんに小さく手を振ると振り返してくれて、なんだか胸が温かくなる。
チリンチリン、と澄んだ鈴の音がなって扉が開く。
傘を畳んでから小走りでこちらに来るツナさん。
「ごめん遅くなった」
『全然大丈夫なんで気にしないでください』
いつものように向かいの席に座るツナさんの髪の毛から微かに水滴が落ちる。
『ツナさん髪の毛濡れてますよ。
傘さしてたのに…』
「ああ、急いで走ったからあんまり傘の意味なかったかも」
『ちょっと待ってくださいね』
かばんの中からハンカチを取り出して濡れてるツナさんの髪の毛を軽く拭く。
ツナさんの橙色の驚いたように見開かれている瞳と目があってはっとした。
『あっ、すみません、私ってばつい…』
慌てて手を引っ込める。
「いや、全然嫌とかじゃないから!
少し驚いただけで」
『そうですか?』
「うん」
なんだか微妙な空気が流れてしまった。
一月ほど前、本が入れ替えられてたりして気まずくなったあの時とは種類の違う気まずさが、最近時々だけれど付き纏うようになった。
あの時、誤解が解けた後でツナさんが言った台詞については、私もツナさんも特に触れてはいない。
その方がいい気がしたからだったのだけど、やっぱりなかったことにはできなくて、不意に意識してしまうようになった。
ごまかすようにコーヒーを一口飲んでふと視線を横に向けて叫びそうになった。
窓の向こうで男性二人が私とツナさんを凝視している。
銀髪の男性は驚きに目を見開いて、短い黒髪の男性はきょとんとしてこちらを見ていた。
突然のことに混乱してツナさんに助けを求めて視線を移すと、ツナさんがやば…と呟いたのが聞こえた。
『ツナさん…?知り合い、ですか?』
「…うん」
窓の向こうの彼らははっとしてからこちらへとやって来た。
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