トワエモア

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その日は、同盟ファミリーのボスと話し合いをすることになり、秘書の私も一緒に向かった。
ほぼ私は席を外していたから何の話をしていたかなんてわからないけど、知らない方がいい。
変に情報なんか持つと、狙われてろくなことにはならないに決まってる。
とは言っても、沢田さんの秘書な時点でもうたいして変わらないのかもしれないけど。

1時間程度が経ったとき、控室かわりに使わせてもらっていた部屋で寛いでいると、ここのファミリーのメンバーであるだろうスーツの男が入ってきた。
適当に愛想笑いで挨拶をすると、何を勘違いしたのか、男は私の座るソファーの隣に腰掛けた。
いや別に話し相手とかいらないんだけど。
早く出て行かないかな。

「ねえ君、ボンゴレ10代目の秘書だよね?」

興味津々といった様子で聞いてくる。

『ええ、そうですよ』
「じゃあさ、あの噂本当なの?」
『噂?』

思い当たる節がない。
聞き返すと男は話に食いついてもらえて嬉しかったのか、得意げに話しはじめた。

「ボンゴレ10代目は、秘書を建前に愛人そばに置いてるってやつ」
『……はぁ?』

思わず日本語で思いっきり不機嫌丸出しで答えてしまった。

『何ですか、つまりあなたは私がボスの愛人だと?』

沢田さんとは呼ばずにボスと言った。
ここはボンゴレじゃないから。
それにしても、ずいぶん失礼な言い草だ。
私は誰かの愛人になんかなりたくもない。

「いや、俺がっていうか、噂で…」
『だとしても、会って間もない人にそんなふうに聞くのは失礼だと思わないんですか?』

ぐっと押し黙る男を軽く睨みつける。
女だからとか、弱そうだからとか、日本人だからとか、いろいろな理由で軽く見られてるのかもしれないし、そういうことが今までになかったわけでもないけど、ムカつくものはムカつくのだ。
それに、なめられたままでは私が気に食わないし、ボンゴレの威厳という観点でもよくないと思うし。

『言っておきますが、私とボスは上司と部下であって、それ以上でも以下でもありません。きちんと秘書として与えられた仕事はしています。侮辱しないでいただけます?』
「侮辱だなんてそんなつもり……気に障ったなら謝るよ」

弱腰でそう告げるとさっさと逃げていってしまった。

ああでも、そんな噂があるとなると正直やりにくい。
どのくらい広まっているのかなんて知らないけど、そんなふうに私が見られるなんてごめんだ。
私は仕事はきちんとこなしたいし、仕事に対してプライドだってある。







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