トワエモア
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仕事が一段落したので時計に目をやると、もう昼に差し掛かっていた。
そろそろ骸さんと約束していた時間なので、昼休みに入ろうと沢田さんに声をかけようと口を開きかけたとき、足音が二つ近づいて来るのがドアの向こうから聞こえた。
視線をドアに向けてすぐに、扉が開かれた。
「依織、迎えに来ましたよ」
笑顔で入ってきた骸さん。
沢田さんはあからさまに嫌そうな顔を向けていた。
「お前、いっつも言ってるけど、ノックくらいしろよ」
「マフィアに礼儀は無用です」
「なんだよそれ」
「それに、用があるのは彼女です」
不機嫌そうな沢田さんが気になるけど、約束は約束だ。
『行ってきますね、沢田さん』
「いってらっしゃい」
私が骸さんに促されたままに外に出ると、背後からパタンと扉を閉める音がした。
『骸さんっていつも沢田さんにあんな態度なんですか?』
「ええ、そうですね」
『すごいですね。ちょっと羨ましいです。私、長いものには巻かれてしまうので』
「それも賢い生き方でしょう」
多分私は、日本人らしいんだと思う。
お茶を濁すとか、笑顔でごまかすとか昔から得意だし。
「それより行きましょう。クロームが待ってます」
歩き出した骸さんの隣を並んで歩く。
クロームさんは、骸さんに言われて先に車に行ってるらしい。
* * *
暫くして見えた車は、いかにもな高級感溢れる代物だった。
所詮庶民あがりの私は唖然とするしかない。
車に近づくと、一人の女性が背を向けて立っていた。
シルエットは昨夜私が見た彼女紛する骸さんとそっくりで、はやりなのかなんなのか頭頂部に目が行く。
「クローム」
声をかけられて振り向いたクロームさん。
長めの髪に、大きな瞳。
そして眼帯をしている彼女はウルトラ級の美人だった。
多分、昨日見た時も同じくらい美人だったんだと思う。
ただ状況が状況だったから、あまりよく見ていなかった。
思わず固まる私を見て、不安そうに瞳を揺らす彼女に、庇護欲が掻き立てられる。
骸さんが私たちを互いに紹介してくれていたけど、あまり頭に入らなかった。