トワエモア

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朝、執務室に入ると沢田さんは既に仕事をはじめていた。
沢田さんの方が先に来てるとか、秘書としてどうなのだろう。

『おはようございます、沢田さん』
「依織…?ああ、おはよ」

私は、朝は早い方だと思っていたし、現に今まではそうだった。
なんで今朝に限って…。
ふわぁと欠伸をした彼を見て、まさかと思った。

『まさかと思いますが、沢田さん徹夜ですか?』
「うん」

ケロッと答える沢田さん。

『ちょ、徹夜って……よくあるんですか?』
「よくはないよ。たまに、忙しい時」
『身体に障ります!ただでさえいつも遅くまで仕事してるのに…』

いやに視線を感じる。
沢田さんがじっと私を見ていた。

『なんです?』
「なに、心配してんの?」

ニヤリとからかうように彼は言う。

『当たり前でしょう!あんまり無理すると身体壊しますよ』

肯定されると思わなかったのか、沢田さんは虚をつかれたような顔をしていた。

『なんです、私が心配したらおかしいですか?』
「いや……かわいいなぁ、依織」
『なっ!?』

ストレートに真顔でなんてことを言うんだ、この人は!
たらしか!
からかわれてるってわかってるのに、不意をつかれたからか顔が若干熱くなる。
照れ隠しと少しの反抗をこめて睨みつけると、沢田さんは愉快そうだった。

『いつまでもニヤついてないで、いっそ休憩でもして仮眠でもとればいいんじゃないですか?』
「つんけんしながらちゃんと心配はしてくれんだね。何、ツンデレ?」
『誰がツンデレですか!いい加減にしてくださいっ』

執務机に寄って、彼が作業していた書類を覗き込む。

『…これくらいなら、私でも覚えればできますから。沢田さんじゃないといけないものではないでしょう?』
「ああ、うん。一応、俺じゃなきゃまずいのはさっき終わったけど…」

積まれた書類を一瞥し、私に本当にできんの?みたいな視線を送って来る沢田さん。

『できます。今、覚えますから。だから、さっさと教えて、さっさと寝てください。あなたが倒れでもしたらみんな困ります』
「……じゃあ、お言葉に甘えようかな」

沢田さんにやり方を10分程度レクチャーしてもらう。
そう難しい作業ではないし、どうにかしてみせる。

「じゃあ俺寝るけど」

どうやら備え付けてあるソファーで寝るらしい。
量はそれなりにあるから終わるか心配なんだろうけど、信用してほしい。

『はい、どうぞ』
「2時間で起こして」
『了解です。おやすみなさい』
「ん、おやすみ」

カリカリと私がペンを走らせる音と時計の秒針が時を刻む音が、静かな室内に響く。
暫くすると、そこに小さな寝息が混じった。
やっぱりつかれていたらしく、眠りに落ちるのも早い。
さてと、気合いを入れ直して私も頑張らないと!






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