トワエモア

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小学生の時に家族旅行でイタリアに行ったとき、私はレンガ造りの町並みだとか、おいしい料理だとか、陽気な人々だとか、何もかもが日本とは違うその国にものすごく感動したのを覚えてる。
幼いころは、こんなにステキな場所があるなら絶対将来ここに住むぞ! なんて、もれなくついてくる苦労やら何やらは考えずに単純に思っていた。
そして、なんだかんだとそんな憧れをずっと抱いたまま大人になり、イタリアで就職までしてしまったのだから私は未だに単純なのかも。


イタリアに来てはや一週間。
私はソファでカフェラテを飲みながら寛いでいた。
仕事にも随分慣れてきたけど、日本に暮らしていた私はシエスタというものに慣れず、眠るでもなくこうしてお茶を飲みながら読書したりすることが多い。
今日は読む本もなかったからソファに座りながらぼんやりととりとめもないことを考えていた。

午後3時を回った頃カチャリとドアノブが回り、慌てて立ち上がる。
姿を現したのは予想していた通りの人物だった。

「依織、調子はどうだ?」
『おかげさまで、とてもいいですよ』

目の前の初老の男は、ベルトルド・ブレロ。
私の直属の上司……というか、会社の社長だったりする。
なんだかよくわからないけど、ただの一社員になるはずだった私を気に入ったという理由のみで秘書にしたのだ。
一応大学時代に秘書検定はとっていたけど、そんな適当でいいのか疑問だ。
でもそんな私とは裏腹に、社長はいつも奔放なひとだったらしく周りで働く人達は文句も言って来なかった。
それどころか、結構な歓迎ムードだったのだ
これってお国柄かな。
ちょっと聞いたところによると、社長には日本人の知り合いがいて、かなりその人に世話になっているらしく、敬愛しているそうだ。
だから日本人に対していいイメージが強いらしい。

「依織、少し話があるんだよ。今からいいかい?」
『はい』

ソファに座った社長に紅茶をいれながら、何かミスとかしちゃったかなと心配になる。

「私に娘がいるのは知ってるかい?」
『はい。ソニア様、ですよね』

今は滅多にないけど、以前はしょっちゅう会社に顔を出していたらしく、社員は大体彼女を知っている。
たまに話題にあがるのだけど、結構なお転婆らしい。
いろいろやらかしたとかなんとか。
よくは知らないけど…。

社員ははぁ、とそれはそれは大きな溜息をついた。
え、やだ嫌な予感しかしない。

「実はな……馬鹿娘がまたとんでもないことをしてくれたんだよ」
『…と、言いますと?』
「新しく別の方面で仕事を始めようと思ったんだ。今、会社が波に乗っていたからな。そのためにとあるところから元手になる資金を借りたんだよ。以前からの知り合いで、よく世話になっていて、二つ返事で話に乗ってくれたんだ。……だがなぁ」

社長は遠い、遠ーい目をした。

「さっきわかったんだが、ソニアがその資金丸々持って行方をくらませたんだ」
『…………はあああああぁぁぁーっ!!?』






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