変人カノジョ
□13.頼れる上司
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普段はなかなか気軽に足を踏み入れることはできない重厚な扉の前でセイラは佇んでいた。
トントン、控え目にノックしてから中に入ると、昼間からテキーラ片手で長い足を机に乗っけたザンザスが鋭い視線を向けてくる。
『ボス…今忙しい?』
「……時間くらいつくってやる」
『やった!』
部屋に入ってソファに座り込む。
『あのね、ザンザス』
「なんだ」
『ザンザスって、誰かを好きになったことある?』
テキーラを煽っていたグラスを止めてザンザスはセイラを見やった。
「どういう意味だ?」
『ん…恋ってなんだかよくわからないの。ちょっとこのままじゃいけないかなって。考えても考えても答えがでないんだ。…別に、誰かを好きになったことがないわけじゃないんだけど…』
あいつらか…ザンザスが小さく呟いたが、セイラには届かなかった。
セイラ自身、ベルに指摘されてから考えるようになっていたが、いまだに答えはでない。
こうなってくると、無意識に答えを出さないようにしているのかとすら思うのだ。
そして、多分それは当たっている。
トラウマかぁ、と呟くセイラを見詰めていたザンザスは、徐にグラスを机に置いた。
「お前は考え過ぎだ」
『考え過ぎ?』
「普通、そんなもんは考えるまでもねぇ。むしろ考えたからどうなることじゃないだろうが」
『そういうもん?』
「少なくとも俺はな」
『そっか』
ザンザスは立ち上がるとセイラに歩み寄り、その頭を撫でた。
「考えなくてもわかるときにはわかる。…些細なことでな」
『うん。ありがとう、ザンザス』
それから5分後、和やかな雰囲気をぶち壊したのは「う゛お゛ぉい!セイラ、サボってんじゃねぇぞぉ!」というスクアーロの怒声で、ザンザスは少しの躊躇もなしに酒瓶をぶん投げたのだった。
2012/04/30