白色ポピー
□なくしたもの
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痛む頭で億劫に思いながら振り返るとそこにいたのは男だった
しまっていたはずの部屋の窓がいつの間にか開いていて、隙間から吹き込む風が男の茶色い髪を弄んでいる
彼の瞳はまっすぐ私をとらえている
『デューク…』
「お久しぶりですね」
『何でここに…?』
「あなたに会いに来たんですよ」
すっと茶色い目が細められて、ぞくりとした
嫌だ
この人こわい
「今の曲…別れの曲ですか…懐かしい」
『あなたは、なんなの…?』
「何を言ってるんですか。
その曲を弾いていたということは思い出したんでしょう?」
『知らない!』
「知らない…?」
蔑むような視線
「…甘えるのも大概にしろ」
急に低くなった声に体がびくりとした
「知らないんじゃない。
忘れているだけだ。
その曲は誰に教えてもらった?」
××もこのきょくがすき?
わたしとおんなじね
頭が痛い
わたしがおしえてあげる
きっとすぐにひけるようになるわ
「…お気楽なものですね。
お前があのひとを×××のに」
頭が痛くて何て言っているかわからない
立っていられなくて膝と手のひらを床についた
見上げると髪の隙間から見える彼の表情はつめたい
『な、んで…私…』
働かない頭で紡ぐ言葉は訊きたいこともまともに訊けない
そんな私の前で膝をついたデュークの手がのびてきて頬を両手で包まれ、顔をあげさせられる
しっかりと目が合った
「お前が何をしなければいけないのか思い出しなさい」
『私が…』
「…邪魔が入りました。
私はこれで失礼しますよ」
扉の方へ顔を向けたデュークは舌打ちをして窓から消えていった
数秒後、ノックの後に扉が開いた
「紗那…?」
『クローム…』
ああそうだ
今日は午後にクロームが来るってツナが言ってた
「そんなところに座り込んでどうしたの…?顔色も悪い」
『…何でもないよ』
「冬なのに窓も開けっ放し…」
クロームは窓に駆け寄ると閉めて首を傾げる
「本当に大丈夫?」
『うん…』
大丈夫じゃない
全然大丈夫じゃないよ
でも、なんて言ったらいいの?
こんな状態で、一体、何を
こちらに来たクロームが私の額に手を置いた
「あつい…紗那熱あるよ」
だから頭が回らないのかとぼんやり思った
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