白色ポピー
□それでも
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お母様を殺した。
お父様を殺した。
兄弟たちを殺した。
ずっと私を騙していた。
それでも、
『……できないよ…できるわけ、ない……っ』
ツナからずっと離れた位置にできた風穴がひどくむなしい。
私、仇討ちすらできないなんて。
カタンと力を失った手から銃が滑り落ちる。
足から力が抜けて座り込んでしまう私はひどく無様でしょう?
『だって…私、うれしかったの。私を助けてくれて。一緒に遊んでくれて。優しくしてくれて。…いつも傍にいてくれて。』
ぽたぽたと涙が床に落ちる。
『それが嘘でもなんだって。だってツナは私に名前をくれた。全部忘れて、空っぽだった私に、紗那をくれた。あの時から、紗那のすべては皆だったんだよ。空っぽの私には、皆が世界だったの…』
私は何をしてるんだろう。
こんなじゃただの犬死にになる。
ツナが視界の端に転がっている銃を拾い上げた。
私、きっと殺されるんだ。
2メートルあった距離をツナが縮める。
私は呆然とツナを見上げていた。
「言ってることが違いますよ」
不意に目の前に黒いものが飛び込んで来る。
『骸…?』
骸が庇うように私とツナの間に立ち塞がる。
「状況はわかりませんが、君をみすみす殺させはしません。あの日、あんなに生きたいと言ったじゃないですか」
『え?』
あの日って何?
ただ骸の背中を見つめる。
広くて大きい背中だった。
「骸…大丈夫、俺はそんなことしない」
ツナは銃から弾丸を抜いてまた放り投げてしまった。
「紗那は、何か勘違いしてる」
『勘違い…?』
骸がツナに殺気がないとわかったからか少しよけた。
ツナは座り込んだままの私の頬を優しく撫でる。
あんまり優しい表情をするからまた泣きそうになった。
「やっぱり、よく似てるね」
『ツナ…?』
「さっき紗那は俺が彼女を殺したって言ったよね」
『うん』
「それは違うよ。俺は彼女を…マリアを殺してなんかない。殺せるわけがないんだ。だって……」
私を見つめるツナが、なんだか泣きそうに見えた。
「マリアは…紗那のお母さんは、俺が愛したひとだから」