白色ポピー

□それでも
1ページ/1ページ




お母様を殺した。



お父様を殺した。



兄弟たちを殺した。



ずっと私を騙していた。



それでも、



『……できないよ…できるわけ、ない……っ』



ツナからずっと離れた位置にできた風穴がひどくむなしい。



私、仇討ちすらできないなんて。



カタンと力を失った手から銃が滑り落ちる。



足から力が抜けて座り込んでしまう私はひどく無様でしょう?



『だって…私、うれしかったの。私を助けてくれて。一緒に遊んでくれて。優しくしてくれて。…いつも傍にいてくれて。』



ぽたぽたと涙が床に落ちる。



『それが嘘でもなんだって。だってツナは私に名前をくれた。全部忘れて、空っぽだった私に、紗那をくれた。あの時から、紗那のすべては皆だったんだよ。空っぽの私には、皆が世界だったの…』



私は何をしてるんだろう。



こんなじゃただの犬死にになる。



ツナが視界の端に転がっている銃を拾い上げた。



私、きっと殺されるんだ。



2メートルあった距離をツナが縮める。



私は呆然とツナを見上げていた。



「言ってることが違いますよ」



不意に目の前に黒いものが飛び込んで来る。



『骸…?』



骸が庇うように私とツナの間に立ち塞がる。



「状況はわかりませんが、君をみすみす殺させはしません。あの日、あんなに生きたいと言ったじゃないですか」



『え?』



あの日って何?



ただ骸の背中を見つめる。



広くて大きい背中だった。



「骸…大丈夫、俺はそんなことしない」



ツナは銃から弾丸を抜いてまた放り投げてしまった。



「紗那は、何か勘違いしてる」



『勘違い…?』



骸がツナに殺気がないとわかったからか少しよけた。



ツナは座り込んだままの私の頬を優しく撫でる。



あんまり優しい表情をするからまた泣きそうになった。



「やっぱり、よく似てるね」



『ツナ…?』



「さっき紗那は俺が彼女を殺したって言ったよね」



『うん』



「それは違うよ。俺は彼女を…マリアを殺してなんかない。殺せるわけがないんだ。だって……」



私を見つめるツナが、なんだか泣きそうに見えた。



「マリアは…紗那のお母さんは、俺が愛したひとだから」






 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ