白色ポピー
□後には戻れなくなって
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夜中、月明かりが明るい満月の中を一人歩いていた。
中庭に出て、今は萎んでいる花の中を歩いて、設置されているベンチに座る。
怖くて眠れない。
暗闇とか幽霊とかじゃなくて、記憶を取り戻すのが怖い。
今夜は、何かを夢にみてしまいそうな気がして。
そうしたら後には戻れなくなりそうで。
…でも。
記憶の中のあの女性を、思い出したいと心のどこかで思ってる。
組んだ手をじっと見詰めていると、ふと隣に誰かが座る気配がした。
「思い出した?」
その問いにゆるく首を振る。
『少し、だけ…。ボンゴレの業がどうとか…』
「そう。あの人の口癖みたいなものだったからね、ボンゴレの業のせいだ、奴らは逃げられない、とか」
ちらりと横を見るとその男――デュークはまっすぐ前を向いていた。
『口調、変わるんだ…』
「だってもう、思い出しかけてるだろ?演技する必要はなさそうだ」
『…うん。私、思い出す』
「そう。決意が固まってよかった」
『あの人のこと、思い出したい。だから、デューク…弱い私を、眠らせてくれないかな。…きっと、思い出すから』
「ああ、いいよ」
にこりと、月を背景に笑う彼は嫌に美しかった。
指輪に青い炎をともしたデュークは、その炎を私に纏わせた。
「雨の炎は沈静作用があるから、すぐに眠くなるよ」
頷いて、目を閉じる。
不思議な気分だった。
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