CHANCE

□似てないけど、
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「似てないよ。顔も、性格も、全然違う。君は河上葵とは全然違う」

雲雀さんの言う通りだと思う。
あの事件以来、私は変わってしまったと自分でも自覚している。
昔は輝いて見えていたものがくすんで見えるというか、物事を客観的にしかとらえられなくて、世の中がつまらなくなった。
みんなから一歩さがったところから見ているような、そんな感覚で。
私は相当歪んでしまったのかもしれない。
以前の私だったなら復讐なんてとてもできないのに、今ではそれが楽しみでしょうがないくらいだ。
なんかもう、冷めちゃったんだ、いろいろ。
変わらずに大切なものだってあるけれど。
今の私と過去の私の共通点って、もしかしたらそこだけかも知れない。

ふと雲雀さんの声が聞こえて我にかえる。
何を物思いに耽ったりしてるんだろう。

「…似てない、けど……。たまに君が葵とダブって見えることが…あるよ」

雲雀さんも私を見つめていた。

「ふとした仕草とか、似てるな、って思う。コーヒー飲むときとか、」
『そう、ですか』

なんて答えたらいいのかわからなかった。
それどころか脳内はパニック状態だ。
そんなところ、見てるなんて思わなかったから。

「何を言ってるんだろう、僕は。悪かったね、葵」

自嘲気味に雲雀さんが言うから、何も言えなくなってしまった。

「…別に、君を気に入ったのはそれだけが理由じゃないよ」
『そうですか』

そうは言うけれど今の私を本当に見てくれたんだろうか。
目の前にいるのは今の私なのに、昔の私しか見てもらえていないような気がする。
なんだか胸が苦しくなって、誤魔化すように胸元を手繰り寄せた。
私は馬鹿だ。
私自身がこうなるように、昔の私と今の私は別人だと思わせるように仕向けたのに。
雲雀さんが過去の私ばかり見ていて嫉妬するなんて。
本当に救いようがない。

『…私をその人と重ねてるから気に入ったっていうんなら、私に構わないで欲しいんです』
「…君、ひとの話聞いてた?それだけじゃないって言ったばっかりなんだけど」
『それだけじゃないって言うんなら…なんなんですか』

雲雀さんは顔を反らしてしまった。
――ほら、やっぱり…。

「…葵といると、なんだか安心するんだよ」

顔をひそめながら雲雀さんがぼそりと呟いたのは私にはとても衝撃的で、予想していなかったかったものだから、目を見開いてしまった。
雲雀さんはもう一度こちらを向くと、優しい微笑みをむけてくる。
昔の私にむけてくれたのとおんなじ、優しい笑顔だった。

「だから、僕のそばにいてよ。…風紀委員、ならないの?」

ぐらりと、意志が揺らぐ。
でも、駄目だ。
私は、ここに、
何をしに戻ってきたのか。
それを忘れることはできないから。

『ごめんなさい』





加筆修正2012/04/15

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