CHANCE

□artifice
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『どうしたの京子!?その腕…っ』

京子に駆け寄ろうとしたら、突然私と京子の間にクラスメイトの一人が立ち塞がって、突き飛ばされた。
ぺたんと尻餅をついて、何が起きたのかようやく理解する。
顔をあげると汚いものを見るような表情をした男子が私を見下ろしていた。

「葵っ」

京子が私に近寄ろうとするけど、それは何人かのクラスメイトに阻まれている。
呆然としている私にツナくんが手をかしてくれたので、立ち上がった。
そんなツナくんにクラスメイトからのバッシングが飛んだ。
獄寺くんがツナくんをバッシングしたクラスメイトを威嚇すれば、教室内が静まり返る。
私はいまいち状況が掴めないまま教室中を見渡した。
クラスメイトのみんながみんな、私に向ける視線は侮蔑とか嫌悪とかそういう負の感情で、胸が締め付けられるような心地がした。
教室の沈黙を破ったのは、京子だった。
京子は遮っていたクラスメイトを押し退けて私のもとに駆け寄ると、私の腕にだきついた。

「葵じゃないって言ってるのに…!」

京子の悲痛な叫びも意味がわからずポカンとするしかない。

『京子、何が「席つけおまえらー」

タイミング悪く教師が入ってきて私の言葉は遮られてしまった。
そのままHRがはじまって、それが今日に限って長引いたりするものだから、京子に何も訊くことができないままに、一限目の授業になってしまった。
こんな状態で授業に集中なんてとてもできなくて、ぼーっとしてしまう。
数学の授業だったから、黒板の数字の羅列を書き写そうと思うものの、なんだかやる気がおきなくてノートは真っ白だった。

「河上、何ぼーっとしてるんだ。随分余裕そうだな、俺の授業なんてきいてなくてもいいってことか?」
『…すみません』

なんだろう、この違和感。
やけに先生の言い回しが嫌みったらしい。
先生はにやりと嫌な笑みを浮かべると黒板を顎でさした。

「河上、あれ解いてみろ」

しょうがなく立ち上がって黒板の前まで歩き、問題を見て唖然とした。
だってこれって今授業でやってるところとは全く関係ない。
先生の顔色をうかがってみると、意地の悪い笑みを浮かべたままだった。
絶対この人わざとだ。
もしかして、先生まで私がまどかちゃんをいじめたと信じているんだろうか。
そうだとしたらなんて理不尽なんだ。
人の話をききもしないで。

「なんだ河上、できないのか」

ニヤニヤと笑う教師と陰口を叩くクラスメイトにムカついてきた。
無言でチョークを掴み問題を解きはじめる。
私はもともと勉強が好きだ。
この問題を解ける。

答えを書いてチョークをおくと、教師はにがにがしげに正解と呟いた。
このまま席についてもよかったけど、それでは私も納得がいかない。

『先生、この問題はまだ授業で習っていない範囲ですよね。そんな問題を解かせてもほとんどのひとはきっと意味わかってないですよ。まだ一年生なんですから』

そう言ってから先生に笑顔を向ける。
先生は押し黙った。
自覚はあったんだと思う。

自分の席に向かって歩き出す。
理不尽なことばかりでいらいらした。






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