CHANCE

□私の面影
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みなれた景色。
みなれた登校風景。
数か月ぶりの通学路。
全然変わってない。
変わってなくて当たり前なんだろうけれど、少し寂しい。
結局、人一人に起きた出来事なんて関係なく世界はまわるんだ。

溜息をついて校門をくぐろうとした時、懐かしい声がした。

「君、見かけない顔だね」

会いたくて、会いたくなかった人がそこにいた。
雲雀恭弥。
学校の風紀委員長で、不良の頂点に君臨している男。

『私、今日から転校してきたんです。…あなたは?』
「転校生…?そういえば草壁が言ってたな。君、名前は?」
『神崎葵です』
「葵…?」

雲雀さんの目が揺れた。

『職員室に寄るように言われてるので、失礼します』

頭を下げて、校舎へむかい歩き出す。
が、右腕に軽い衝撃を感じ振り返った。

「ねぇ君、前僕と会ったことないかい?」

雲雀さんは困惑した表情を浮かべている。
彼自身、よくわかっていないんだろう。
きっと無意識のうちに何かを感じているんだ。
嬉しい、なんて思っちゃいけない。

私は神崎葵。
河上葵はもういないのだから。

『ないと…思いますけど…』

声が震えそうだった。
捕まれたままの腕があつい。

「……そう。もう行っていいよ」

雲雀さんは腕をはなした。
私はもう一度頭をさげて今度こそ校舎へとむかった。






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