CHANCE

□手をさしのべる
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重い瞼を押し上げ、目を開ける。
うまく定まらない焦点。
何度か瞬きすれば、目にはいった景色は見なれないものだった。
白い天井と蛍光灯。
気だるいからだをゆっくりと動かして周りを見渡せば、自分が病室にいるらしいことがわかった。

なんでこんなところに?
私は確か―――

「目が覚めた?」

鈴のような声に視線を向ければ、そこには少女の姿があった。
その少女は病室の扉の前に立ち、こちらの様子を伺っていた。

『誰…?』

うまく声が出なくて、かすれた声で問い掛ける。
私の問いかけに少女はにっこりと微笑むと軽い足取りで側へやってきた。

キシ、
ベッドのスプリングがきしませて少女がベッドに座った。

「あなた、学校の屋上から飛び降りたんでしょう?」

きれいに笑ったまま少女がその鈴のような声で呟いた。
黙ったままの私を気に止めず、少女は続ける。

「…私ね、命を粗末にする人の気持ちがわからないの」

ふふ、と笑みを漏らしながら少女は私を見た。
見た目に不相応な鋭い眼差しだった。

『…私が命を粗末にしたって言いたいの?』

少女は首を横に振った。

「私はあなたが何故自殺をしようとしたのか知ってるのよ」

自然と眉が寄る。
何故、この子がそんなことまで知っているの。

「私は生まれた時からいつ死んでもおかしくない体だったの。今、一分一秒先だって、いつ死んでもおかしくない。小さいころから死と隣り合わせで、だから自分から死のうなんて思わない。今更死を怖いだなんて思わないけど…私が死んだら悲しむひとだって確かにいるってわかってるから」

この少女は一体何が言いたいのだろう。

「私は自分から自分の生に見切りをつけて死んでいく人の気持ちがわからないし許せない。だったら私の代わりに死ねばいいのよ」
『…私を怒りにきたの?』
「違うわ。あなたも自殺をしようとしたけど、あなたの場合は少し違うもの」
『……』
「あなたは死を選んだんじゃなくって、死しか選べないくらいに追い詰められていたんでしょう?私がわからないのはあなたを死に追いやった人たち。その人たちはきっと自分が殺人をおかしかけたってわかってないわ。…自分の罪をわかっていない」

きっと彼女の言うとおり。
彼らは何にもわかっていない。
自分たちが手のひらの上で踊らされていることですら。

「ねぇ、」

少女に視線を向ければ、目が合う。
透き通った、きれいな瞳だった。

「あなたは――復讐したくない?」


彼女は天使のような微笑みで

悪魔の囁きをもらした。






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