CHANCE
□never
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* * *
「はい、それじゃあ今日の授業は終わりね。体育館を使用する今日の授業はこれで最後だから、ネットとかの片付けしちゃって。終わったら各自帰っていいわ」
今井先生が体育館から出ていくといつものように難癖をつけられ、片付けを押し付けられた。
別に片付けくらいいいけど。
雲雀さんとのことが広まってからというものの、表立った嫌がらせなんかはないし。
「葵、早く終わらせて帰ろ?」
得点板を持って京子がそう言った。
『…ごめんね、京子まで手伝わせて』
「気にしないで。二人の方が早く終わるよ」
『うん。ありがとう』
ボールの入ったカゴを倉庫まで押している途中、ピンポンパンポーン、と放送が入る。
保健委員会で臨時の委員会を開く、という内容だった。
『京子って保健委員だよね。臨時委員会だってよ』
「うん、でも…」
『大丈夫。もう片付けは大方終ってるし、気にしないで?』
「…うん、ごめんね葵」
小走りで体育館から出ていく京子を見送ってからこっそり溜息をつく。
私と一緒にいるから、京子にもやっぱり迷惑かけちゃってるよね。
友達なんだから当たり前だって京子は言うけど、巻き込んじゃってるわけだから申し訳ない。
もう一度溜息をついたときガラッとドアの開く音がした。
京子が忘れ物でもしたのかと振り返った先には、今井先生がいた。
「あら……河上さん一人?他の子たちはどうしたの?」
きょとんとしている彼女は、多分本当にわけがわかっていないのだと思う。
私の置かれてる状況を知っている教師は多いけれど、あまり関わらないひとは多分知らないし、今井先生は授業を受け持っているクラスの数も少ない。
学校に来ない日もあるし、担任もしていないのだ。
しかも、彼女は少し前に学校にくる途中に事故にあっていて数日は入院していたから情報に疎いのかもしれない。
事故といっても、外傷は全然無かったからもう大丈夫らしいけれど。
問い掛けになんて答えればいいかわからなくて曖昧に笑ってみた。
彼女もそれだけで何となく察したらしい。
眉を寄せてから先生は片付けを手伝ってくれた。
「ねぇ河上さん」
『はい』
「このあと時間ある?」
『少しなら』
もう放課後だから、あまり経たないうちに風紀委員会の仕事を手伝いに行きたい。
「30分でいいから話をきかせてくれない?」
まっすぐな目だった。
まだ若くてやる気に溢れた彼女はすごく正義感が強そうだったから、こういう状況がゆるせないのかもしれない。
『……多分、聞いても信じられないですよ?』
彼女はしっかり頷いた。
「それでも、このまま放っておけないわ」