CHANCE

□never
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学校へ行く支度をすべて終えて玄関を開けると、扉のすぐ隣の壁に雲雀さんが寄りかかっていた。

『おはようございます』
「おはよう、今日は昨日とはうってかわって早いね」
『昨日はたまたま寝坊しただけですよ。結構早くにお仕事手伝いにだっていくじゃないですか』

ちょっと拗ねて言うと、ごく自然に手を繋がれた。

「行くよ」
『え、あ、はい』

慌てて鍵をかけ学校に向かった。



雲雀さんと登校できるのは、本当に、とても、すごく、嬉しい。
けど、あちこちから集まる視線。
昨日は遅刻ギリギリだったからあの時間に歩いてる人はほとんどいなかったけど、今日は違う。
たくさんうちの学校の生徒がいる。
その上今日はバイクでもないからすぐに私たちだとわかってしまう。
雲雀さんが注目されるのは仕方ないけど、まさかここまでだなんて。

学校について校舎に入る。
雲雀さんは何故か私が教室に行くのについてきた。
廊下ですれ違う人達が一々二度見してる。
群れるのが嫌いだといつも言っている雲雀さんが私とくっついて行動してるんだから、当たり前かもしれない。

教室の入り口についたところで雲雀さんに向き直る。

『今日はどうしたんですか?学校中の人に見られちゃいましたよ』
「そうだね。僕らの噂で持ち切りだ」
『わざわざばらさなくても…』
「いいんだよ。虫よけになるから」

そう言って雲雀さんは私の後ろ、教室内を見た。
見たと言うより睨んでる。
そんな雲雀さんをみてようやく彼の意図を理解した。
雲雀さんはきっと、抑止力になろうとしているんだ。
雲雀さんは関係をおおっぴらにしたがるようなタイプではないと思う。
それなのにわざわざ徒歩で一緒に登校したり教室まで来たりしたのは、私が雲雀さんと付き合ってるってことを周りに見せ付けて、私がこの間みたいに暴力を振るわれないようにしてるんだろう。
だって、雲雀さんは恐れられてる。
そんな雲雀さんに逆らおうとする人なんてほとんどいないし、敵う人なんているのかも謎だ。
そんな雲雀さんと付き合ってるひとに暴力をふるうなんて、なかなか勇気がいることだろう。

「葵、いつでも応接室に来ていいから」
『ありがとうございます。でも、大丈夫です。…私は絶対に屈したくも、逃げたくもないですから。だから、がんばります』
「…そう。でもあんまり心配させないでね」
『はい。気をつけます』

雲雀さんは一度頷くとまた教室の方に目をやった。

「葵」
『はい』

ふ、と視界が陰った。
何が起きてるのか認識するよりも早くちゅ、と小さな音が額の方からした。

『ひひひ雲雀さんんん!!?』

人前で何考えてるんですかと睨みつけるけど、呆気なくスルーされた。
まあ私が雲雀さんに敵うわけがないんだけども!
真っ赤な私に軽く笑いかけると彼はいってしまった。






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