白色ポピー

□遠出
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久しぶりに感じる外の空気、久しぶりに見る街並み。
私はついつい移動中の車の中窓の向こう側に釘付けになった。
ツナたちと暮らすようになってから外に出たのは数えるほどしかなかった。
皆が私を束縛しているわけではない。
多分私が外に行きたいと言えば、行かせてくれる。
私は外に出るのは好きだ。
じゃあなんでツナたちに外に行くことをお願いしないかっていったら、こわいからだ。
記憶喪失っていうのはやっかいなもので、私にとって外は未知でしかない。
屋敷にいることが多いから、尚更だった。
今まで外に行ったのは、必ず一人ではなく、今みたいに誰かが一緒。
一緒じゃないとこわいなんて子どもみたいだけど、どうしても慣れない。
外に行きたいからって毎回誰かに付いてきてもらうのも気が引けてしまって、言い出すことはできなかった。
だから、久しぶりの遠出に浮かれているのかもしれない。

『クロームと出かけるのってはじめてだね。私女の子と一緒に出かけるのって記憶にないから、楽しみ』
「そっか、じゃあ楽しめるといいね」

クロームが優しい笑うから、私も笑顔で頷いた。

つくづく私は幸せだと思う。
死んでもおかしくなかった命を救われ、こうして優しい人たちに囲まれていきている。
記憶なんてもどらなくてもいいから、このまま幸せに暮らしていけたらいいな、なんて不謹慎なことも思ってしまう。






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