CHANCE
□never
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* * *
「―――そう、そんなことがあったのね」
今井先生は神妙な面持ちでそう呟いた。
『……信じてくれるんですか?』
「ええ。……こんなこと、生徒のあなたに言うべきじゃないのかもしれないけど……。西村さんのお家、ある企業の社長なのは知ってる?」
『はい』
「だからか、教師たちの間でね、暗黙の了解みたいに西村さんの成績は悪くつけない、ってなっているのよ」
『え…』
今井先生は深く溜息をついた。
「西村さん、勉強はそれなりにできるけど、運動はあまり得意じゃないでしょ?この間の成績、実力に見合うカタチでつけちゃったのよ。私も危ないのかしら」
困ったように微笑む今井先生。
「……でも、本当に大変だったわね、河上さん。彼女が相手なら、先生たちは誰も助けてくれなかったんでしょう?よくがんばったわ」
優しく目を細める彼女。
明らかにほかの教師とは違った。
こんな先生が、まだいてくれたことが嬉しい。
「とりあえず、私から西村さんに話を聞いて、注意してみるわね。残念だけど、多分、それで解決にはならないと思う。また考えてみるから、もう少し辛抱して。つらくなったら私のところにいつでも来ていいからね」
『はい』
「ごめんなさい、頼りなくて……」
まだ教師になったばかりの彼女は、あまり経験がないんだと思う。
周りの先生は宛にならないようだし。
むしろ、そんな中私を気にかけてくれるだけで嬉しいのに。
『いいえ、ありがとうございます。先生も無理はしないでくださいね』
その日はそれで先生と別れた。