□「絶対」なんて
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「この世の中に『絶対』なんてありゃしねぇ」











放課後の教室で夕焼けに照らされながら、ふとそう呟いたのは、俺と所謂恋人関係にある男、高杉晋助で。





こいつは時々俺が考えもしないような難しい事を突然口に出しては世界に、時には自分に溜め息をつく。






「なんでまたそんな事思っちゃったワケ?」






聞けば、昨夜遂に高杉の両親が離婚する事を決めたらしい。



前々から確かに夫婦喧嘩が絶えないといった事を高杉から聞いていたのを思い出す。







なるほどね。
だから「『絶対』といえる関係」が有り得ない、か。






あれ?
でもさぁ高杉って一人暮らしだし、親御さん達の事も「あの人達は離婚した方が良い」って言ってたよね?

それでもやっぱり両親の離婚っていうのはショックだったのかなぁ…






多分俺の言いたい事が分かったんだろうね。
高杉がちょっと下を向きながら


「違ぇよ…」


って言った。






その言葉に続きがあるもんだと思っていた俺は黙ってた。






でも
一向に声は聞こえて来なくて。






不思議に思って高杉の顔を見てみると、何かを言おうとして口を開けるが 言いづらそうにまた閉じる、を繰り返していた。








珍しい。


いつも自信に溢れているこいつがこんな風に躊躇するなんて。






でもね、
この銀さんをナメてもらっちゃあ困るよ。
何年お前と一緒にいると思ってるんだい?






お前がそんな風に自信を無くすのは、大体が俺に関する事でしょ?
別に自意識過剰とかじゃないからね!!






お前ってば俺の事なら何でも知ってるはずなのに、俺の気持ちには人一倍不安がるもんね?






大方、親御さんの離婚がきっかけで俺との関係、っていうより俺の気持ちが、かな?



不安になっちゃったんだろうね。






だから
「『絶対』なんてありゃしねぇ」
ね。









馬鹿だなぁ、高杉。
お前は気付いてないのか?






実はその言葉に大きな矛盾が在るってことにさ。








「絶対なんて絶対無い」
そこには既に『絶対』が存在するんだよ。








きっと頭の良いお前は「そんなの屁理屈だ」って怒るかもしれないけどさ、







言葉って、世界って、
そんなもんだと思うんだよ。







世界の全てが曖昧でさ、それを同じく曖昧な言葉で定義しようなんて到底ムリな話だよ。






まぁ、俺が何を言いたいかって






「俺はね、高杉」






高杉と目が合う。






「『絶対』とか『永遠』とかどうでもいいんだよ。」






だってそうでしょ?






「俺にとっては今、ここで、一緒にいる高杉が全てだからね。」






笑いながらそう言ってやれば、






目の前の不器用な男は


一瞬泣きそうな顔をしてから


次の瞬間にはいつもの余裕たっぷりな笑いを浮かべて


「ばーか」


なんて言いながら


俺をその腕に包み込む。













俺を


お前の胸の温かさが満たしてくれるんだ。


ね?


そこに言葉なんて要らないでしょう?






「絶対」なんて在るか無いか分からないような言葉なんてさ!!






fin.

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