僕と仲間の学生日記。
□脱力青春夏休み。
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『あづー…』
気怠るそうな声がハモる。
何とも間の抜けた空気が漂う夏の午後。
三人は校舎の影にいた。
近くの木からこれでもかと言わんばかりに蝉が鳴く声が耳と頭に響く。
しかし、金のない貧乏学生たちはクーラーの効いた喫茶店などで少ない手持ちを削るわけにはいかないのだ。
これがその一例である。
「汗が滝のようだー。」
「いーじゃん、何て言うか…光る汗?」
「どっちかってーと、テカる汗。」
「あー、滝が汗のようだー。」
「や、駄目だろ千秋。滝枯れてんじゃん。」
「近年話題の水不足か。それはまさに今の自分だよ。」
柚樹が薄蒼色の透き通ったラムネ瓶をきゅっと上げると、中のビー玉がカラン、と音を立てて転がった。飲み干して空になった瓶の口を覗き、名残惜しそうに息を吐く。
しかし、最後の一滴まで諦めないと言わんばかりに、瓶をアスファルトに垂直に逆立て、伝い落ちてくる最早ただの砂糖水を辛抱強く待っている。
その額には、また早くも汗が滲んでいた。
「今からどーすんの。」
瓶の底の方に残っている一口くらいのラムネを飲みきり、タンッと勢い良く瓶を置いた柚鷹。
「…キャッチボールでもしますかー?」
「うぇ、こんなあちーのに?」
苦そうな顔を浮かべ、溶けて最早水になったかき氷を飲み干して千秋は小さく甘っ、と呟いた。
いくらかの奮闘の後、そのわずかな水分を得たのであろう柚樹は満足気に口を拭ってこちらを見た。
「お子様め」
「だまらっしゃい。」
一時的なエコ精神はなおも続く。
空になった瓶を首にあて、少しでも涼しさを味わおうとするものの、瓶に付いた水滴も乾いてしまった今、残っているのはなんとも言えないヌルさだけだった。
今は夏休み。まだ3日目。
青い絵の具で塗ったような蒼い空。
ぽっかりと浮かんだ白い雲。
空の向こうから湧く白くて大きな入道雲。
全てが鮮やかで眩しい、夏。
ぬるい風に運ばれて夏のにおいが鼻を掠めた。
「あ、つい…ねぇ。」
「で、すねー…」
「ねー…」
最早やる気が感じられない会話とも言えないようなやり取り。
「で、結局何すんの?柚鷹くん、柚樹くん。」
「てめーも考えろ。馬鹿者。」
「あ、花火は?派手に、さ。」
「女いねーのにか。」
「あははは、頭ぶっ潰すぞ千秋。」
「そうだぞ千秋。
柚樹だって信じられないが生物学上、女ってことになってるんだ。」
「よし、二人ともそこに並べ。
叩っ斬ってやる。」
「はい、すんません。」
「すいませんした。嘘です。アナタハスバラシイジョセイデス。」
「柚鷹君は許してあげます。けど、棒読みもいいところです千秋君。先生が鉄槌を食らわせてあげます。」
柚鷹は千秋の方を向いて、ほら、言わんこっちゃないと言わんばかりに冷めたような見棄てたような目で見つめた。
「柚鷹、助けてと言ったら助けてくれますか。」
余裕なのか焦っているのか判らない千秋に、柚鷹は最高級スマイルで返す。
「俺は、死にたくない。」
「だって。これで心置き無く逝けるね。」
「待って?」
「待たない。」
真夏の青空に放物線を描いて。
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(柚鷹の裏切り者。顎がいてーよ。アッパー?まさかのアッパー?)(どんまい。アッパラパー君。)(俺か、俺のことなのかそれは!)