男の腕の中
ぐったりと
眠り続ける



黒髪姫



蒼白な顔に生気はなく、時折ピクリと動く長いまつ毛が人間である事を告げる。
整いすぎた少年の容貌は、精巧に造るられた人形の様だった。

見る限りでは、大きな外傷はない。ただ、尖った顎や抱き上げた時の重さから長身のわりには痩せすぎだと思った。

ハンカチで濡れた顔を拭ってやり冷たい頬にドキリとする。

その瞬間。
ピクリとも動かなかった少年が、フルリと震えて、温もりを求める仔猫の様にクロスの胸にすり寄って来た。

「………」

くすぐったい気分に陥る。小さな頭をそっと撫でると安心したのかまた意識を手放し、動かなくなった。

腕の中の黒猫は、綺麗でも野郎は野郎だ。固いし乳はないしいらないものはしっかり付いてる。
なのに
なぜ。

捨て置かずに拾って来たのだろう?

アレンは、乱菊に会いたいための口実と理解したみたいだが、こんな面倒を拾わなくても彼女に会いたいなら、何時でも自力で会えるのだ。
「…?」

シャツから覗く華奢な手首には、包帯が巻かれて痛々しい。それだけなら気にも止めないのだが、よく見ると左右の手首、スニーカーから覗く左右の足首にも包帯が巻かれていて、痛々しい。

濡れた包帯をほどいてみた。
「…………」
「どうしたんですか?」
後ろの様子が気になって仕方なかったのだろう。
ミラーでチラチラと後ろの様子を確認していたアレンが、聞いてきた。

「…どうやら、この姫君はお城から逃げ出したみたいだぞ」
「?」
「両手両足に拘束の跡がある。」
「!」
「この器量だ。エロジジイに監禁凌辱ってのもありかもな…確かめてみるか?」
「どっどこに手をやってるんですか!」
純なアレンをからかい一頻り笑う。


「………からかうなんて。ヒドイですよ」


ブチブチ文句は綺麗に無視して。血の滲んだ少年の左手をそっと撫でる。
右手は紐で縛ったうっ血の跡はあるが血は滲んでいない。擦過傷だ。

流行りのリストカットか?いや、それなら両手両足拘束の意味がない。

「…アレン」
「はい」
「急げよ」
「急いでますよ」

面倒は嫌いなんだがな。
とりあえず、車から放り出す気持ちにはならなかった。

今はまだ
姫君の眠りの深さに
胸を撫で下ろす。





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