タイトル名入力
□蚊帳の外
1ページ/3ページ
幸村さんが、目の前で倒れてゆく。
そのさまを、俺はただ呆然と見てるだけだった。
駅のホームのアナウンスが、片隅でぼんやりと聞こえては木霊していった。
「赤也!救急車呼べ!」
先に駆け寄って幸村さんを抱きかかえた先輩たちが、俺に叫んでいた。
幸村さんは、苦しそうに目を瞑っていた。
俺には、わけがわからなかった。
俺は、なにも知らない。
幸村さんの、なにも知っちゃいない。
昨日、「部長って呼ぶの、やめな」と言われて。
馬鹿みたいに嬉しくて。
大好きで。
なのに、あそこに横たわって、目をあけないのは、誰?
俺は結局、蚊帳の外なんだ。
蚊帳の外
幸村さんが入院して二週間。
どたばたと音をたてて、全ては走ってゆく。
俺はそれについていけないままだった。
幸村さんを抜いての全国制覇はできるだろうが、俺は幸村さんがいない全国大会なんかなければいいと思った。
全国の舞台に立ちたいのは、誰よりも幸村さんだと思う。
ラケットを握れない毎日が、どんなに悪夢なのだろう。
俺はそれを思うと、幸村さんの見舞いどころじゃなくなる。
行ってはいけないのかもしれないと、そう思ったりもした。
ただ、やっぱり幸村さんはどこか影ができてしまった。
幸村さんが目覚めて数日後、俺は見舞いにいった。
彼は俺に「出て行け」と言った。
幸村さんが、泣くように叫んだ。
俺はどうしたらいいかわからなかった。
・