短編集

□溺れた兎
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ほら、やっぱり、溺れたね。

溺れた兎は、どうやって這い上がってくるのだろうか?

それとも…、もっと、もっと、溺れていくのかい?






「やっぱり、出逢わなければ良かったのかも」

「…何で?」

ティキが切なそうな顔をして、泣きそうな顔をしているオレを覗き込んだ。
そんなに、切なそうな顔しないでよ。言ったコッチも切なくなるじゃないか。

「だっ、て、…だって!!」

「ん?どうして?」

「敵同士だから、会えない、し、人前で、喋る事すら、…許されない、から」

「そうだね。だけど、…俺はラビを愛してるよ?今見える現実や、今言える言葉ソレだけで俺は満足なんだ」

「…、ふ、ぅえ…、ティキィ」

「よしよし、出したい時は全部吐き出してごらん、楽だから」

泣き出したラビをティキは優しく包み込むように抱き締めて、頭をポンポンと優しく撫でた。それは、とても優しくて。今ならば現実を忘れられそうだ、とラビは思った。

「オレ、ティキの、腕、の中ならっ、死んでも、良いさ」

ティキは眉を八の形に歪ませた。きっと、寂しいのだろう。捕食者が獲物に対して、持ってはいけない感情を抱いてしまったのだろう。

「ラビ、心配しなくても、俺はここに居る」

「でも…、何時もは傍に居ないさ」

"そういう時はね…"そう囁いてティキはラビの左胸をトントン、と人差し指で叩いた。

「?」

"ラビの心の中にずっと居るよ"

「…そうさね、それじゃあオレ、寂しくないさ」

「うん。だから全然、寂しく無いんだよ」

ラビはとびっきりの笑顔を見せて、もう平気だ、と云う事をティキに伝えた。
ティキは優しく、頭を撫で続けていた。

アンタがオレの心の中に居るのならば、オレは死ぬ事すら怖くない。
だから、これからもずっと、居て下さい。



獲物も捕食者に対して、持ってはいけない感情を抱いてしまった。


溺れた兎は這い上がってこない。
漆黒の闇に、狼と墜ちていった。
ソノ先に、幸せは待っていますか?

















END

―‐―‐―‐―‐―‐
不完全燃焼っ
意味不…。
 

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