明けの明星

□ため息の数(主サイド)
2ページ/8ページ

こんなに汚い自分を隠して頻繁に志波くんと会う約束をする。
会えば友達としての扱いが切ない、苦しい、だけど彼の一番近くにいたい。
こんな自分を志波くんにだけは知られたくない。

『おまえの笑顔が見られるならそれでいい』
かつてそう言われた言葉に縋り付くように彼の前では笑顔でいる。
ため息も苦しさも全部閉じ込める。

最後にもう一つ深くため息をつくと、わたしは待ち合わせ場所のバス停に向かった。


バス停近くまで行くと志波くんがもう来ているのが見えて、慌てて小走りになる。
遅れたこと怒ってるかもしれないけど今日の服、気に入ってくれたみたいでホッとした。

今日遊びに行くのは遊園地。
初めて二人きりで出かけたのも遊園地だった。
もう数え切れない程ここに二人で来ている。


ジェットコースターでわたしが気持ち悪くなっちゃった時に優しくしてくれたこと。
お化け屋敷の後にふざけ合ったこと。
ナイトパレードで時間が止まればいいねって言ったこと。
嫌いな観覧車も私が喜ぶから無理して乗ってくれたこと。
楽しい思い出がたくさん詰まってる場所。

今思えばいつだってわたしは志波くんが好きだったんだ。
もうあの頃みたいに接してもらえなくても、わたしはこの場所が好き。
…時々、涙が出そうになるときもあるけれど…。


歩幅の広い志波くんは出来るだけわたしに歩調を合わせてくれる。
それでも早歩きで付いて行かないと遅れてしまう。
…前は手を繋いだり腕を組んでたから、歩調も合ったんだけど…。
でも友達になってからは一度も手なんて繋がない。
あはは、でもそれは当然だよね。

だから遅れないよう一生懸命に付いて行く。
せめて二人の距離がこれ以上離れないように。


最初にジェットコースター、次はゴーカート。
これがわたし達の定番。
特にゴーカートは志波くんのお気に入り。
乗ると車の免許を欲しがって、目を輝かせる。

『免許をとったら助手席に乗せてね』

むかし、わたしが言った言葉。
あの時は卒業したら乗せてくれるって言ってくれたよね。
未来に繋がる話をいろいろしたよね。
同級生というただそれだけで繋がってる仲じゃないってそう思えた。
あの言葉を今もらえるなら、その言葉に全力で応えるのに。

.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ