明けの明星

□ため息の数(志波サイド)
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一人でいるとため息が自然に出る…もう数え切れないほど。

『片思いの時ってため息が増えるよね』

かつてあいつに言われた言葉を思い出す。
ため息が増える、か……確かにその通りだな。

最近オレはおかしくなりかけてる。
原因は分かっていて、対処法も分かっている。
あいつをオレから遠ざければそれで済む話。
やろうと思えば簡単に出来ることだ。
誘いを何度も断ればいくら鈍感なあいつでも察するだろう。

あいつと言うのはオレが心から欲しいと願う女。
…オレを親友と信じて疑いもしない女。


一年前の今頃、家の前で楽しそうに話すあいつと奴を見かけた。
『好きな人が出来たの…』
夕暮れの海で告げられたのはその直後。

戸惑うような泣きそうな視線を向けてくるあいつに、オレは出来るだけ協力すると約束した。

既にその時、オレはあいつを本気で好きだった。
だが下手に思いを伝えてそれでもう二度と会えなくなるのだけは避けたかった。
何よりも…あいつには笑っていて欲しかった。

だから身を切られるような痛みを感じながら、気持ちを抑えて友人として近くにいる道を選んだんだ。
『おまえの笑顔が見られるならそれでいい』
あの時そう言ったのは嘘じゃない。


最初はそれなりにうまく行っていたと思う。
下校途中に会えば喫茶店で話を聞いてやり、たまに意地悪を言いながらも助言する。

炎のようだった気持ちもいくらか和らいでいくように思う。
いつかあいつのこともオレの中でいい思い出になるだろう。
そんな風に思っていた。


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