明けの明星

□ため息の数(主サイド)
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服はこの間買ったばかりのこれでOK、髪型も大丈夫。
メイクはグロスだけ…とすっかり彼の好むイメージに固めてる自分に思わず苦笑する。

鏡に向かいながらハァ、とひとつため息をつく。
(片思いの時ってため息が増えるよね)
そんな問いかけを志波くんにした事をふと思い出す。

今日はその志波くんとデート…ううん、遊びに行く約束をしている。
友達相手じゃデートなんて表現、しないもんね…。
自分から誘っておいてため息ばかりなんて、もし知られたら呆れられてしまう。


いま苦しいのは全部自業自得。
心からそう思う。
わたしが志波くんに“好きな人”とのデートを見られたのは今から一年前、高校二年目の冬だった。
志波くんには正直に自分の気持ちを伝えた。

その時は本当に“好きな人”を好きだと思っていたから…その気持ちがただの憧れと気付いてなかったから…。
そして、彼は私の“親友”になってくれた。
下校途中いろいろ相談に乗ってくれて、ぶっきらぼうだけどアドバイスしてくれる。
志波くんみたいな信頼できる男友達が出来て最初はただただ嬉しかった。


でも、志波くんが相談相手になってから初めて外で会った時。
いつものように何気なく志波くんの手に触れたわたしを、志波くんは軽く怒った。
それはついこの間までの態度と全然違っていた。

確かに学校では、志波くんとの間に違和感を感じていたけど、それは学校だからだと勝手に都合良く解釈してた。
わたしは友達という境界線をはっきり引かれたんだ…。
何故かどうしようもない程の寂しさと悲しさをその時感じた。


その気持ちが何なのか分からないまま志波くんと外で会う約束をわたしは繰り返した。
誘う度に「本命と会うつもりで来い」、そう言われる。
もう志波くんからは一度も誘われない。

どんなに楽しい時間を過ごしても最後には本命の話を持ち出される。
わたしたちはあくまで友達なんだと釘を刺されたような気持ちになる。


“好きな人”とは何度かデートをして、楽しかった。
それなのに心のどこかで志波くんと比べてる自分に気付いてしまった。
何を話してもどこに行っても志波くんを思い出してしまう。

この気持ちの正体はじきに分かった。
“好きな人”とのデート中、軽く互いの手が触れた。
その時突然、まるで切れていた回路が繋がったように自分の気持ちがはっきり見えた。


『触れるのは志波くんでなきゃ嫌』


そうなんだ。わたしは志波くんが好きなんだ…。
自分の気持ちに気付くと同時に、自分の最低さも自覚した。

“好きな人”とはそれから一度もデートしていない。
向こうから何度か誘ってきてくれたけど、誘いを断っているうちにもうそれも無くなった。
本当に私って、最低だなぁ…。


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