明けの明星

□ため息の数(主サイド)
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「免許をとったら助手席に乗せてね」

小さい声で独り言のように呟いてみる。
「あ?なんで?」
…返事が返ってくると思わなくて、それにまさか志波くんに聞こえるとは思わなくて。
思わず体全体でびくついてしまった。

怒りを浮かべた顔と冷たい声で志波くんが言う。
「…助手席はオレじゃなく、奴に乗せてもらえ…」

あの時とは、全然違うコトバ…。
駄目、泣いたらいけない、絶対にここで泣いては駄目。
“友達”はこんなこと言われた程度では泣かない。
そう思えば思うほど涙が出そうになる。


「志波くん、わたしちょっとお手洗いに行って来るね!」
必死で作ってみた笑顔は不自然だったかもしれない。
彼の返事を待たずに背中を向けて歩き出す。
その途端に限界点突破…涙が溢れだした。

一度こうなったら思いっきり泣いてしまった方がいい。
少し志波くんを待たせてしまうけど、目の前で女の子に泣かれるより、ずっといいよね…。


ゴーカート乗り場の近くに、人目から死角になってるベンチがある。
志波くんとお弁当食べたりお昼寝したりした、わたしのお気に入りの場所。

ここは落ちついてていいなって、志波くんも気に入ってたな…。
本当にここでの全ての記憶が彼と結びついてて嫌になっちゃう。

アトラクションの陰のそのベンチに座って、そのまま子供みたいに泣きじゃくった。


志波くんにはよく子供扱いされて、その度にわたしはムキになって反論した。
でも、やっぱり、わたしは子供なんだ。
本当に欲しいものも分からずに、手に入らなくなってから欲しがる子供…。


どれくらい泣いたのか分からないけど、気持ちが段々落ちついてきた。
一気に泣いたおかげで、すっきりしたような気がする。
思い出のたくさんあるここで…気の済むまで泣いてみたかったのかもしれない。
でも…さすがにそろそろ戻らなきゃ…志波くん、怒ってるかも。

その時、誰かに優しく頭を撫でられた。
驚いたわたしが目だけハンカチから離すと…目の前に志波くんがいた…。

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