薬の影響で味覚をやられているのか、彼の唾液は驚く程甘かった。
柔らかな銀髪を掻き抱き、普段の自分からは考えられないくらい積極的にカカシの唇を貪る。
息継ぎの合間には、普段は言えない『好き』の言葉を織り交ぜて。
「っふ…イルカせ…」
「俺は…っ、アンタだけだッ!! 俺だってっ、アイツ等に嫉妬して…っ」
腕から流れる血がカカシの白い背中と銀色の髪を汚す。
彼は子供達に嫉妬したと言っていたけれど、それは自分だって同じなのだ。
彼の背中を追いかけ、成長していく事を許された子供達に何度醜い感情を抱いた事か。
中忍である上に教師として里に身を置く自分では、彼と共に任務へ出る機会などそう巡っては来ないだろう。
旅立つ彼等の後ろ姿を見送りながら、共に行ける子供達を妬ましいと思った事だって、一度や二度じゃない。
月明かりに照らされた銀色の髪も、射抜かれそうな程強い力を湛える色違いの双眸も。
本当は、カカシを形作る何もかもが欲しくて堪らないというのに。
「先生が、嫉妬…?」
「俺だってアンタを閉じ込めて何処へも行かせたくなんかないんだ!任務だって…本当はっ!」
こんな事を思っているなんて、絶対に知られてはならないと思っていた。
弱く醜い自分を知られたくなくて、何時だって平気な顔をしてきた。
でも、結果としてそれがカカシを孤独へと追いやっていたなんて。
「せんせ、嬉しい…っ!」
「ぁっ――!」
ぎゅうっと抱き締められ、全身にまた欲の波が押し寄せる。
未だ開放される事の無い熱が、まるで出口を求めて身体中を駆け回っているかの様だ。
(も、限界…!)
「ごめん先生…ごめんね。酷いコトしてごめん」
「も、い…です、からっ!早く…っ!!」
性急な手つきでカカシの下穿きの前を寛げ、緩く勃ち上がっていた彼の雄に手を這わす。
カカシは余裕の無いイルカにもう一度だけごめんと呟くと、足を持ち上げて固くなった雄をぐっと中へと押し入れた。
やっと得られたカカシの熱に、嬉しさで目が霞む。
「あっあっ、んんッ!カカシさ…っ」
「今ラクにしてあげるから…下の糸、解くよ?」
揺さ振られながら雄に巻きつけられていた紐を外され、逃げ場を求めていた快感が一点に集中した。
「やぁぁんッ!あぁッ――ッッ!!」
熱い飛沫が勢い良く飛び散り、乗り上げたカカシの顔に掛かる。
頬に付いていたイルカの血に混ざり、薄ピンクの雫が垂れた。
「ん、沢山出たネ。ホントはもっと可愛くお強請りして欲しかったんだけ…ってッ!!」
「巫山戯た、事…言ってんじゃねぇっ!薬が切れるまで、くっ…トコトン付き合って貰うからなッ!」
がつっと頭突きを食らわせて、まだ中にいるカカシの雄をきゅっと締め付ける。
カカシはそんなイルカの言葉に満足した様に微笑むと、再び腰を動かし始めた。
* * * * *
「ん…」
「目が覚めましたか?」
寝返りを打つのも億劫な程身体が怠い。
特に腰から下は鉛で出来てるんじゃないかと思う位重かった。
手首には何時の間に手当てをしたのか、真っ白な包帯が巻かれている。
「カカシ…先生…」
見るとカカシは忍服を着込み額宛もつけていた。
窓から差し込む光はもう朝のものの様で、どうやら自分はコトの最中に気を失って眠ってしまったらしい。
「今…何時ですか?」
掠れる声で尋ねるとカカシの肩がびくりと不自然に上がる。
「ねぇ、何時…」
返答を寄越さないカカシに仕方なく頭上へと手を伸ばし、枕元の目覚ましを取った。
また閉じそうになる目をなんとか開けて、手にした時計を見る。
只今の時刻、午後1時25分。
「………は???」
「あの、その…」
「いちじにじゅうごふん〜〜〜ッッ??!!」
驚きの余り目覚ましを放り投げ、ベッドから飛び起きる。
立ち上がった途端腰に走った痛みによろめき、そのままカカシに抱き留められてしまった。
「あっホラ、無理しちゃダメですよ」
「あ、アンタっ!何で起こしてくれないんだーっ!!授業っ授業がぁーっっ!!」
「だって先生、すっごく良く寝てたんだもん…何だか起こすに起こせなくって。大丈夫ですよ、アカデミーには病欠だって連絡入れておきましたから」
確かに今から支度をして向かった所で、午後の授業はあと半分も残っていない。
でも今日予定していたカリキュラムは一体どうなったのだろう。
「はっ、答案用紙っ!!昨日道端で落とした答案用紙はっ?!」
「それならソコに全部ありますよ。昨日忍犬達に拾いに行かせました」
にっこりと笑うカカシの言葉を聞いて、はぁ〜〜っと大きく息を吐きそのまま床にへたり込んでしまった。
何なんだよそのスッキリサッパリ笑顔はよ…
今日はこの間のテスト返して、出来の悪い奴らは居残り講習受けさせるつもりだったんだぞ…
次の授業に使うための資料も、重いの我慢して沢山沢山持ち帰ってきてたっていうのに…
どうやら彼のお陰で無断欠勤だけは免れたみたいだが、本を正せばあの人が無茶苦茶なコトをやらかしたせいなワケで。
そう思ったら段々腹が立ってきた。
確かに俺が至らない部分もあったけどよ、何も折角アイツ等が作ってくれたラーメンに薬盛るこたぁねーだろう?
ラーメン!!
そうだよ、ラーメンだぞ?!
オレの至福のラーメンをヤキモチの道具なんかに使いやがってーーっっ!!
「いっ、イルカせんせ?」
「…カカシせんせい…」
俯いたまま、絶対零度の声音で言う。
食べ物の恨み、根は深いんだぜ。
さぁ、思い知るがいい。
「はっ、ハイッ!!」
「…俺、すっごく腹減りました」
「じゃ、じゃあ何かお作りしま…」
いそいそとキッチンに向かいそうになるカカシの腕をぐっと掴み、引き止める。
「ラーメンがイイです」
「ラ、ラーメン…?」
「どっかの大馬鹿野郎がねぇ…元教え子達が俺の為に作ってくれた大事な大事なラーメンに薬を盛ってくれちゃいましてね…?昨日は旨いラーメンが食えなかったんですよ。ですから」
「ごごごごごめんなさっ…」
顔を上げてギロリと睨み、彼に向かって大声で怒鳴る。
「一楽のラーメンッ!!スペシャルなヤツを超特急でッッ!!!」
「畏まりましたーーッッ!!」
俺の声が上忍専用マンションに響くのと、カカシ先生が瞬身で一楽へ向かうのは、ほぼ同時の出来事だった。
ふん、こんなんじゃまだ腹の虫が治まらねぇ。
俺のラーメンを台無しにした罪はラーメンで償ってもらうぜ。
明日は何味を頼もうかなぁ?やっぱり味噌?ううんトンコツも捨て難いな。こうなったら餃子もつけて贅沢してやれ!
「…あ、」
でも、偶にはちゃんと『好きです』って言葉にして伝えなきゃ。
もう…あんな顔、させたくないからな。
「貴方が…スキ、です…?いや、アンタが好き…だぜ、かな…?」
言い慣れない言葉の練習に頬を染めながら、空いた腹を抱えて彼の帰りを今か今かと待ち構えた。
end