『一楽でラーメン修行、ですか』
『ええ。2日間テウチさんの手伝いをこなした後、3日目来店するお客様にあいつらの作ったラーメンを試食してもらい、点数をつけて貰います』
『変わった修行ですねぇ』
『本来はチームワークの更なる向上と、忍の力を以って長年培ってきた職人の技をどれだけ盗み出す事が出来るか、を見るのが目的です。合格点に達しなければ一週間一楽でタダ働きですよ』


俺の読みに狂いが無ければ。
あの人は確実に、明日一楽を訪れる―――


■■ A secret of the Ramen ■■


「ヤバイってばよヤバイってばよッ!!点数があと30点も足りねぇッ!!」
「お前が塩の代わりに間違えて砂糖入れてたせいだろうが、このウスラトンカチッ!」
「まぁまぁサスケ君。途中で気付いたんだし、お客さんもあと5人残ってるわよ」
「ま、1点でも足りなければ1週間タダ働きだーけどねー」

採点方式はテウチさんが無作為に選んだお客さん30人に0〜10点までの点数をつけて貰い、味を判断してもらうという至ってシンプルなもの。
最初の1日目はてんでバラバラだったこいつらだが、2日目には連携も取れてきて中々良い動きを見せていた。
サスケは写輪眼でテウチさんの手の動きをコピーし、麺の湯切りをマスターした。
サクラは女の子らしく包丁使いも器用で、ナルトは今まで食べ続けてきた一楽の味をサクラの頭脳にサポートされながら必死に作り出している様だ。


ただ、スタート直後に発生したナルトの失敗が足を引っ張り、後半になって追い詰められている。
店の営業時間も残り少なくなり、採点を頼む人数もあと2人となった。


「さっきのお客サマ、5点」
最後の2人の内の1人が置いていってくれた採点票を手に取り、子供達に伝える。
これで合計点数は191点。合格の200点までにはあと9点足りない。

「何?!クソッ、何がいけなかったんだ!」
「あと9点も取らなきゃいけないってばよ!!どーしよサクラちゃーん…」

慌て始める2人を他所に、サクラが採点票に書かれていた一言を読み上げた。
「ん?何々…『本当は10点をあげたい所でしたが、未来ある子供達の更なる向上を期待して敢えて5点にしました』ですってぇ?!素直に10点寄越しなさいよッしゃーんなろーッ!!!」
「コラコラ、サクラ…今はお客さんが居なかったから良かったケド、お店でそんな事口にしちゃイケマセン」
怒りの余り内心が表に出てしまったサクラを諌め、テウチさんに頭を下げる。

「ハハハ…いいってことよカカシ先生。こいつら本当に良く頑張りましたゼェ。この短期間でココまでの味が出せるたぁ、忍者ってのは凄いネェ」
「有難う御座います」
「ま、店の方も粗方来客が落ち着いたみたいだし、次のお客さんで閉めるとするか。次の方が最後の採点者ってコトでいいなァ?」
店仕舞の支度を始めたテウチさんが丼を洗いながら言うと、子供達は皆一様に固い表情で頷いた。

次に来店するお客が彼等の運命を握っている――



(来るよ、絶対来る。あの人が来ないワケないモノ)


数分後―
ゆらり、と暖簾が揺れた。
子供達の顔に緊張が走る。


「いよっ、頑張ってるかぁ〜?」
「え、い、イルカせんせぇ?!」

(やっぱり…)

暖簾を捲り顔を出したのは、矢張りイルカ先生だった。

今まで残業だったのだろう。
まだ仕事が片付いてないのか肩から斜めに下げたバックはパンパンで、片手には書類の束を抱えている。

「お前らがココで修行してるって聞いてな。晩飯がてら様子を見に来たんだけど、お邪魔だったかなぁ?」
「いーえっ!!そんなコトないですっ!!ささ、どーぞコチラヘ!」
(イルカ先生が相手ならイケるッ!!しゃーんなろーッッ!!)

サクラが率先してイルカ先生を席へ案内する。思惑がバレバレで、彼も苦笑しつつ素直に席へついた。

「イルカせんせっ!俺が旨いラーメン作ってやっからよ!!期待してて!!」
「アンタは黙って俺達の全てを見ててくれ」
最後の採点者を前に、2人の顔がキリリと引き締まる。
「おう、頼んだぞ。ナルト、サスケ」

キビキビと動く3人を頼もし気に眺める彼の表情は、それはそれは嬉しそうで。


その表情を見た途端、心の中から冷たいモノが溢れ出す。
恋人である自分でさえ、あんなに嬉しそうな表情はそう簡単に見せては貰えないというのに…

昨日彼にこの事を話した時点で大体想像は出来ていたけれど、実際目の当たりにすると結構キツイ。
こいつ等はただ元教え子だというだけで、あの表情をこんなにもアッサリと手に入れる事が出来るのか。

「カカシせんせっ上がったってばよッ!」
どん、と丼をカウンターに乗せられ、知らず無表情になっていた自分に気が付いた。
動揺を日頃のポーカーフェイスで巧く隠し、出来たてのラーメンを彼の元へと運ぶ。

「さ、イルカ先生。カカシ隊第7班特製ラーメンですヨ」
「わ、有難う御座いますっ」
いっただっきまーす!

イルカ先生は良い子のお返事で手を合わせると、箸を手に勢い良く麺を啜り出した。
と、湯気の向こうに見えた彼の表情が一瞬固まった。

「イルカせんせっ!旨い?旨い?」
「なっ…何て言うか、独創的な味だなァ。色々な旨味が複雑に絡み合っているというか…きっ、嫌いじゃないぞ、この味」
「複雑?そんな事言われたの初めてだってばよ…?」

彼は一気に残りのラーメンを掻っ込むと、ダンッと丼をカウンターに置き、椅子から立ち上がった。
「ご馳走サマッ!!旨かったぞ!」
「お、イルカ先生もうお帰りかい?」
店の奥からテウチさんが声を掛ける。

「え、ええ。まだ仕事が残っているもので…」
「そうかい、そりゃあ大変だな。じゃイルカ先生、この子達のラーメン、1から10までの何点ぐれぇかな?」

彼は僅かに視線を彷徨わせたが、いつもの笑顔で子供達に告げた。
「勿論、10点満点だ!!お前ら、良く頑張ったなッ!!」
「「やったーっっ!!」」

これで合計は201点。合格ラインを突破した。
「カカシ先生っこれで200点超えたってばよ!!」
「ん〜〜〜…じゃ、ごうかーっく!!」

喜び回る子供達。
それを見て彼も満面の笑みを浮かべている。

「じゃ、俺はこれで失礼するよ。またな!」
はしゃぐ子供達に声を掛けると、俺とテウチさんにぺこりと頭を下げ、彼は一楽を後にした。



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