結局、あれからカカシの男の威信復活の為と称し、出るモノも出なくなる迄散々に喘がされた。
互いが何回達したかなんて考えたくもない程ドロドロに絡み合った挙句、固く抱き合ったまま飯も食わず、風呂も入らず深い眠りに堕ちてしまった。
頬にふにふにと柔かい感触がして、沈んでいた意識が覚醒を促される。
その感触の主を確かめる為、未だ重い瞼を薄っすらと開いた。
「…ん」
「おはよセンセ。起こしちゃったかな」
やけに晴れやかな顔をしたカカシが朝の挨拶とばかりにキスをしてくる。
窓の外に広がる薄暗い朝の光景に、固まったままだった俺はぎこちなく視線を隣の居間へと向けた。
開けっ放しの引き戸の向こう側。
卓袱台の上には広げたままの答案用紙が見える。
「う……、わぁぁぁっ!テストッッ」
「イイイッ、イルカさんっ?!」
しまった!
添削が残っているのを忘れてた!
抱きしめられていたカカシの腕を振り解いて飛び起きる。
ベッドを出ようとしたら突然の行動に驚いたカカシに引き止められた。
「センセ落ち着いてよ。急にどーしたの?」
「これが落ち着いていられますかッ!テストの添削が未だ終わってないんですよッ!!」
子供達が必死に解いた答案用紙。
それをSexに耽っていたせいで返却してやれないだなんて。
自己嫌悪にぽろり、と涙が零れる。
「大体アンタが何度も挑んでくるから…ッ!」
「わわっ、泣かないで下さいよっ!俺も手伝いますから」
突然泣き出した俺におろおろしていた彼は、暫くすると立ち上がって「イイ考えがありますッ!俺に任せて下さい!!」と自信満々な表情で言った。
「…イイ考えって何ですか…」
べそをかきながらシーツにつっ伏していた俺は顔を少しだけ上げ、疑いの眼差しでカカシを見る。
(どーせロクな事じゃないに決まってる。大体何時もカカシさんは……)
「ふっふっふっ…まーかせなさい!」
自信たっぷりにそう言うと、カカシは印を結んだ。
(あの印の結びは――!)
「影分身の術っ!!」
ぼふんっ
白い煙と共に現れたのは数人のカカシだった。
「「コレでスピードアップ間違いないデショ?さぁてやりますヨッ!」」
そう言うとカカシ達は一斉にテストの丸付けを始めた。
滅多にお目に掛かれない不思議な光景に呆然と見入ってしまった。
ベッドに横になったままぽかんと口を開けてそれを眺めていたら、本体と思われるカカシが居間との境にある引き戸を閉めてイルカの横に腰を下した。
「何で戸閉めるんです?」
「コレで答案はバッチリでしょう?」
「えぇ、まぁ…あ、有難う、御座います…」
(答えになってねぇよ…)
もとはと言えばカカシが無体を働いたのが悪いと思うのだが、朝っぱらからこんな事にチャクラを使わせてしまったので一応礼を言う。
時計はまだ5時30分を指していて、支度を始めるには少し早い。
分身達の手伝いをする為ベッドを出ようとした所で、またしてもカカシに腕を掴まれた。
「何ですか?」
「アイツらはこの俺ですよ?お手伝い頂かなくてもダーイジョーブですって」
ああそうかい。
中忍の手伝いなんざ必要ないってか。
「そんな事より、まだもう少し時間がありますネ」
ニッコリと笑みを浮かべると、そのまま圧し掛かられてむにゅと唇を押し付けられた。
そして当然の事の様に右手は下肢へと伸びていく。
「ぷはっ!ちょっとっ!!何すんですかッ?!」
「何って愛し合う恋人達の朝の儀式ですヨ。あ、ソコの引き戸は術を掛けましたから邪魔者は入れません。ご安心を」
そう言うが早いか、いそいそと俺のパンツに手を突っ込み、未だ柔らかい雄をやんわりと握り込んできた。
「やっ!そーいう事じゃなくてッ!!あっ、やめっ!!」
「まぁまぁ。キモチイイコト、しましょうヨ」
「ちったぁ反省しろーーーーーッッ!!」
俺の叫びは結界の張られた早朝のアパートに空しく響き渡ったのだった。
――――
あのまましばらくカカシの腕に閉じ込められ、好き放題に弄り回された。
どんなに抵抗すれども最後には彼の手管に翻弄されてしまう自分の弱さが恨めしい。
だがここで昨日の二の轍を踏む訳にはいかない。
なんとか理性を総動員させて『これ以上ヤったら別れますっ!!』と脅しをかけ、結界を解かせるとシャワーを浴びて簡単な朝食を採った。
纏わり付くカカシに完全無視を決め込んで、出勤の準備を済ませ完璧に添削された答案用紙を鞄に詰め込む。
そのまま玄関へ立つと、まだ出勤時間ではないカカシが見送りの為後を追ってやって来た。
「いってらっしゃいイルカ先生。俺、今日の晩御飯はサンマがいいデス」
ニッコリ。
効果音でも聞こえてきそうな、子供のように邪気の無い満面の笑顔。
昨夜からの愚行に対して小言の一つでも言ってから出勤しようと思っていたのに。
そんな笑顔を見せられては、言う筈だった言葉達も出てきやしない。
結局イルカはカカシに対してベタ甘なのだ。
そしてそれをカカシもちゃーんと知っているワケで。
そんな自分に重い溜息を吐いた。
「はぁ……。じゃ、貴方が帰宅するときにスーパー寄ってきて下さい。それとトイレットペーパーも切れてるんで一緒にお願いします」
「ん。今日は俺の方が帰り早いもんネ。りょーかいデス♪」
またニッコリと笑うと、いってらっしゃいのキスです、と言って頬に軽く接吻けた。
別に珍しい事でもないのに、何故だか接吻られた所がじわりと熱を持つ。
「いっ、いってきますっ!」
バタンと勢いよくドアを閉め、アカデミーまでの道のりを駆け出した。
込み上げてくる得体の知れない感情に、訳も無く突っ走りたい気分だった。
(あの野郎…っ!あんな顔して、俺が何も言えなくなる事知ってんだっ絶対!!)
接吻けられた頬を擦りながら早朝の里の中を風を切って走る。
あの笑顔を思い出すだけで擽ったいような恥ずかしいような思いにココロとカラダを占領されていく。そんな自分を持て余すかの様に。
終わらない仕事も、駄々を捏ねる彼も、そして触れ合う身体の燃えるような熱も。
何て事は無いごく普通の1日のごく普通の1コマ。
しかし忍である自分達にとって、そのごく普通な毎日のなんと特別な事か。
里と戦場
日常である非日常――。
泣きたくなる程優しくて笑える位に暴力的な、憎らしく愛おしい毎日。
僕等の日常は刺激的で、いつもギラギラと光輝いている。
end