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□女心と光化学スモッグの空
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「あのさ、もし息が出来なくなったらどうする?」





なぜか俺の部屋の俺のベッドの上をを占領している友人が、ぽつりと言った。
外は灼熱の昼下がり、朝は煩かったセミ達も今は大人しくしているようだ。閉めきった室内はクーラーがよくきいて、無機質な音が漂う。


「…」

「ちょっと、聞いてるのー?」

「聞いてない。」


机のパソコンに向かっていた俺は声だけ返してキーボードを打ち続ける。


「呼吸出来なかったらさー?ねぇねぇ。」


悲しいかな、こいつがしつこいことは百も承知な俺。
はー、と息をついて椅子ごと体を回転させた。


「お前な、そんなもん死ぬに決まってるだろうが。」


だらりと寝転んだその友人は、半目で俺を見てフンと鼻を鳴らした。
なんなんだ一体。


「分かったら邪魔しないでくれ。ていうか帰れ。」


一蹴して再びパソコンに向かう。さっさと終わらせたい大学のレポートなのに、こいつのお陰で効率ダウンだ。

…つまり、気になってしょうがない。密室に友人とはいえ女と2人きり。もっとも友人だと思ってるのはおそらく向こうだけなのだが。幼なじみ、腐れ縁、ずっとそう呼んできた俺の想いは、とっくに形を変えている。

ああ、早く帰ってくれないだろうか。


「光化学スモッグ」

「…なに?」


後ろで起き上がる気配を感じて、思わず手を止めた。


「今日ニュースでやってた。」

「ああ…」


そういうことか。
どこの地域だったか光化学スモッグによる被害がでていたのを思い出した。未来の東京都知事たるもの、あらゆる時事問題にも精通しておかねばなるまい。


「私達、その内に吸える空気が無くなるよ。人類滅亡フラグびんびんじゃん?」


うーん…
腕を組んで想像してみた。
この地球が渇れ果てて、俺もこいつもいなくなる…。どっちが先だろう。苦しいだろうな。看取るのも辛いけど、残して逝くのも辛い。


「勝利。」


得意の妄想スイッチが入りかけたところで名前を呼ばれた。


「あ、いや大丈夫だ。そんなことにはさせないぞ、断じて。俺を誰だと…じゃなくて!お前頼むから帰ってくれ。だいたいそんな話をしにわざわざ来たのか?これだからヒマ人は…」

「しょーーり。」

「っだからなんだ!」

「結婚しよっか。」

「………。…は?」


予想外の展開に勢いよく振り返ると、真後ろにそいつはいた。


「…もっかい言う?けっ」

「うぉい!ちょーっと待った!なんで急にそんな…」


全く流れが掴めないままの俺は酷く混乱していた。
結婚とか言わなかったか今。なんだこいつバカか。


「空気無くなって死んじゃうかもって思ったら、言うこと言って、やることやっとかないとなーって。」

「…や、やることって。お前な…」


それで結婚かよ。
相変わらず単細胞というか単純思考というか…
え?ていうか俺たちただの幼なじみじゃなかったか?


「だって私達って、後はもう結婚して赤ちゃん産むしか…」

「あああ赤ちゃんてお前それ意味分かって言ってんのか!?」

「はぁ?当たり前じゃん」


また話が飛躍しやがった!情けなくも口をぱくぱくさせて動揺丸出しの俺。
対するヤツはといえばにっこり笑って、


「勝利、私のこと好きだよね。」


と、のたまった。


「…。」


正直に言うのも悔しくて、無言の返答。ていうかなぜ知っている…なんだかどっと疲れたような気がして盛大にため息をつく。


「じゃ、そういうことで、ご両親にご挨拶を…」


が、しかし。せっかくのフラグだ。
ここはモノにせねば。


「待て。」


部屋を出ていこうとするそいつの腕をつかんだ。物事には順序ってもんがある。教えてやらないと。


「はいはい?」


そんな嬉しそうに振り向くなよ。…可愛いじゃないか。


「あのな、挨拶の前にやるべきことがあるだろ。」

「…」

「とっとと総理大臣兼魔王になること。それからお前にちゅー、だ。」

「…バーカ」






さぁ、明るい人生設計の第一歩だ。
ゆーちゃん見ててくれよ、お兄ちゃんは頑張るぞー!!












しょーちゃんなんか恥ずかしい人になったゴメン(~_~;)
2010/8/16
 

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