禁断の愛
□「好き」「キス」
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〜忍足侑士×跡部景吾〜
*紫の魔力*
「景ちゃん。」
俺を呼ぶ甘い声。
低く艶めかしいその声は、俺を簡単に狂わせる。
例え耳を塞いでもじわりじわりと俺の中に染み入って、けして消えることはない。
それはそう、こいつの存在そのもので。
離れることができない。
「なぁ・・・景ちゃん。」
ああ、ほらまた。
たった一言、名前を呼ばれた、それだけのことなのに、俯いた真っ赤な顔をあげることも、五月蝿く高鳴る心臓の鼓動を静めることもできない。
「侑、士・・・。」
今もやっと名前を小さく呟けただけ。
それさえも俺には切なくて。
溢れ出ようとする気持ちを制御するのがいっぱいいっぱい。
何故だろう。
ここはいつもとなんら変わらない俺の部屋の筈なのに、こいつがいるからか?
安心して泣きたくなるくらい心地よくて、切なくて泣きたくなるくらい息苦しい。
反する気持ちがますます考えを鈍らせて、まるでお酒に酔ったみたいに、ただぐるぐると回る、なにもかも。
「景ちゃん、顔見せて?」
そっと顎に手を沿えられ、紫の瞳と視線が交わった。
俺を見るこいつはとても優しげで、何より幸せそうに微笑むものだから赤い顔はおさまらないまま。恥ずかしい・・・けれどもやっぱりその気高い紫に吸い込まれる感覚が嫌じゃない。
「景ちゃん。」
またひとつ、名前を呼ばれて、続けてこいつの唇が言葉を形作った。
たった二文字。
でもそれだけで十分。
「「好き。」」
そしてお互い、相手に吸い込まれるように近づいて、たった今、愛する者への言葉を形作ったその唇に、優しく触れ合った。
「キス。」
・・・なんて、俺らしくない。
こいつなんかに調子を狂わされっぱなしで・・・。
それでも、こんな俺が嫌いじゃない。
それこそがこいつに溺れている印だと、鈍感にも気づかずにこいつに抱きついている俺が。
紫の魔力には抗う術など無くーーー・・・。
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