story
□be left behind
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「久保ちゃん?」
シャワーを浴びたばかりの自分。
目の前のベッドには、規則的な寝息を立てる久保田。
「人をその気にさせといて、自分だけ先に寝るとはいい度胸じゃねーか」
時任の口元に不穏な笑みが浮かぶ。
なるべく足音をさせないようにベッドに近付き、その縁にゆっくりと腰を掛ける。
瞬間、ベッドが軋んで小さく揺れたが、久保田が目を覚ます気配はない。
その唇に軽く口付けてみても目覚める事はなく、久保田の眠りが浅いものではない、と悟った時任は、表情を変えることなく久保田のシャツのボタンに手を掛けた。
濡れたままの髪から水滴が伝い落ち、徐々に露わになる肌を濡らす。
眼下に捉えた光景に時任は目を細めると、零れた雫を舐め取るように舌を這わせた。
「ん……」
身体に受けた冷たさと生温い感触に、久保田が身動ぐ。
次第にはっきりし始める意識に逆らわず、薄らと目を開けると、やたらと艶やかな瞳で自分を見下ろす時任と目が合った。
「ときと、」
「なんだ。起きちまったのか」
時任が残念そうな言葉とは裏腹に、楽しげな声でそう呟く。
同時に、きちんと身につけていた筈のシャツのボタンが全て外され、大きく乱されている、という事実に気が付いた。
「ちょっと、何してるの」
「何って……久保ちゃんがやろうとしてた事だけど」
時任の手が、するりと久保田の脇腹を撫でる。
「っ……」
「やっぱ、やめた。俺、もう寝るから」
時任が久保田の上から、横へと身体をずらす。
その腕を、久保田の手が掴んだ。
「続き、しないの?」
時任が再び久保田に向き直る。
キスが出来るほど顔を近付けたかと思うと、その唇は久保田のそれではなく、耳元に寄せられた。
「お前の所為で、そんな気なんか無くしたっつーの」
その言葉に何も返せないでいると、時任は「おやすみ」という就寝の言葉もそこそこに、さっさとベッドに潜り込むと、すぐに寝息を立て始めた。
「時任」
先に眠ってしまった自分に非があるとは言え、中途半端に熱を持った身体の所為で、
元のように寝直すには少しばかり厳しいものがある。
かと言って、穏やかな表情で眠る時任を起こしてまで先を強請る事はどうしても出来ない。
「自業自得、ってやつですか」
久保田は諦めたようなため息を零すと、暖まった時任を腕に抱き込み、目を閉じた。