駄文短編
□初恋〜《憧》
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「はっ!」
「やーっ!」
木刀が桜の花弁を舞上げながら、空を斬る音が響く…
「白哉様、お茶をお持ち致しました。」
「あぁ、そこに置いてくれ。」
動きは止めずにそう答える…
一瞬強い風が吹き、花弁を巻き上げ白哉の視界を塞ぐ…
堪らず刀を持つ手で顔を覆うと、その手を捕まれた。
「スキあり〜♪」
「腕細っ!」
「誰だっ!!」
捕まれた手を振り払い、後ろに大きく下がり身構えた。
「待て、待て!」
「怪しいもんじゃねーから!」
(死覇装!?)
「貴様何者だっ!」
「ここで何をしているっ!」
容易く手を捕られた事に、動揺を隠せずに声を荒らげる。
「しーっ!!」
「そんなデカイ声出すと人が……」
「白哉様ー?」
「やべっ!」
白哉を抱えると、植え込みの中に飛び込んで慌てて手で口を覆った。
「ふぅーっ!」
何とかやり過ごしたが、ジタバタ暴れる白哉を見て屋敷の外へ連れ出した。
民間も疎らな川原まで来たところで手を離した。
もう暴れる事も、声を荒らげる事もなかった。
ここまで来る間に、この男から伝わって来た霊圧が白哉を圧倒していたからだ。
背中に担がれた斬魄刀の大きさにも威圧されていた。
「わりぃっ…なんか誘拐したみたいになっちまって…」
頭をかきながら、バツの悪そうな顔する…
思ったより子供っぽい表情に拍子抜けする…
「ただちょっと姿を見て、帰るつもりだったんだ……」
(馬鹿だなぁ…姿を見れば触れたくなる…触れれば、どんな声で話すのか聞きたくなる…)
浦原さんの言葉を思い出す…
「いいっスかっ!!黒崎さん、見るだけっスよ!接触するのは大変危険を伴います。未来を、即ち今を大幅に変えてしまう恐れも有るからです……」
「がぁーっ!!」
(白哉が可愛い過ぎるのが悪いだろがっ!)
チラリと白哉に目をやる……
「さっきから一人で何を騒いでいるっ!用が無いなら私は帰るぞっ!稽古の途中だったしなっ!」
「あっちょっと待てって!」
「あっ!俺が相手してやるよ。一人で木刀振り回したって面白くねーだろ?」
足を止め振り返ると、手頃な木を持って振り回す男の姿…
「なめるなっ!」
瞬歩で踏み込み木刀を打ち込んだ。
手首を動かしただけで交わされる…
「くそっ!!」
形振り構わず無心で刀を打ち込む。
日が西に傾くまで続いた…
「はぁーっ、はぁーっ、まだだっ!」
「ちょっと休憩しようぜ!ふぅー白哉、細いナリしてタフだなぁ。」
草っぱらに腰を下ろしながら額の汗を拭う。
川原を抜ける風が、熱くなった頭と身体を冷やす…
結局一刀も当たる事はなく、両手には豆が潰れて血が滲んでいた。
しかし、不思議と満足感で満たされていた。
男の隣に腰を下ろし、語り始める…
「なぜ、私の名を知っている?」
「兄の名は?」
「わりぃ…言えねぇ」
「…何者だ?」
「………」
「黙りか…」
無言のまま白哉の手を取り、死覇装の内袖を破ると血が滲む掌に巻き付けた。
白哉の頭をクシャクシャ撫でながら、子供の様な笑顔で言う…
「俺は、白哉を敬愛するものだっ!これから先もずーっとだ!早く未来の白哉に会いたいぜ……」
「さてと、そろそろ帰るかっ!」
立ち上がり袴を叩く…
「白哉っ家まで送っていくぜ!」
「バカにするなっ!」
「………っ!?」
足の感覚が無く不覚にも立ち上がれなかった…
「ほらっ!」
後ろ向きで腰を屈め、手で乗れと合図する。
「兄の世話にはならぬ!」
顔を真っ赤にして怒る白哉の身体がふわりと中に浮く…
「わぁっ!?」
「じゃあ仕方ねぇな、こうして行くか!」
軽々抱き上げる…
鼓動が高鳴る…
胸が苦しくて言葉が出ない…眩しくて、直視出来ない…
白哉に芽生えた感情…それが何かは、まだ気付けなかった…
男の鼓動と息遣いが聞こえる…
太陽の香りに目眩がした……
桜の花弁が舞い上がる中に白哉を下ろす。
「じゃあな白哉。」
「待てっ!」
「兄とはまた会えるのか?」
「あぁ…ちょっと先だけど、必ず会えるぜ!それまでにシッカリ稽古しとけよ!!」
「言っている意味が解らんっ!どう言う事だ?」
「おいっ!!」
桜の花弁の中に橙色の男の姿は消えた……