ー龍達の宴ー

□ー黒龍の過去ー
2ページ/3ページ

デーモンは、俊也を消そうとした。

しかし俊也は無効化で阻止した。

「純平も、俺や妹、そして両親の気持ちを汲んで自分を殺し続けたんだ。だから、彼は死にきれずにこの世界に来てしまった」
「お嫁さんは?」
「他界したに決まってるだろ?けど、最後まで彼の気持ちを分かってたのは俺でもなく女房だけだった。純平は、心の拠り所を亡くしたまま彷徨っている」
「じゃあ…黒龍を倒せば」
「無駄だ。俺様の力には到底敵わない」
「けどずっと生き続けるほど、あんたは強くない」

俊也は、デーモンに向けてそう言った。

「あんたは繊細過ぎたんだ。きっと今黒龍として生きていても、虚無感しか感じないだろう」
「黙れ!!お前も闇に契約した身分だろ!!」
「あぁ、確かにな。でもあんたに殺されて気付いたんだよ」

俊也は冷静だった。

和純はただ俊也の言葉を待った。

「あんたは、人を殺した後の強烈な血の匂いで、自分の虚無感を鈍化させようとした。だがな、そうすればそうするほど、あんたの心に血が流れる。そうじゃないか?」
「分かったような口を利くな!!俺様の苦しみは全てジュニーにある!!」
「ならば何故先に彼を殺さない?そうすれば恨みの根源を絶てるはずたろう?」
「それは…」

デーモンは珍しく、言葉が詰まった。

さっきまで聞いていた和純が口を開いた。

「それはハリルさんをまだ愛していた。そして彼を殺せば、ハリルさんを悲しませてしまう。だから彼は殺せなかった」

その言葉に、俊也は別の理由を言った。

「それとも、自分の味わった苦しみをじじいに同じ目に遭わせようと、敢えてじじい以外の人間である俺達を殺したのか」「えぇーい!どいつもこいつもうるさい!!」
「だが反論しないのは、どちらかの理由が当たってるか、それともどちらの理由も当たってるからだ。違うか?デーモン」

俊也が畳み掛けると、デーモンは悔し紛れに俊也の喉元に、剣を向けた。

だが、俊也は不敵に笑っていた。

「残念だが、俺の実体はもうここには、ないんだよ。それに地獄落ちだと分かってるから、何にも怖くない」

その自信に満ちた言葉の裏に、悲しい運命を背負ってしまった彼に和純は、気付いてしまった。

そしてそれをデーモンが指摘する。

「長年連れ添った女と一生会えなくてもか?俊也よ」

俊也の顔に一瞬陰りが見えた。

「構わないさ。俺はそれ相応な罪を犯したんだ。だが…」

俊也も剣を構えた。

「春代だけは助かって欲しかった!!」
「じいちゃん…」
「春代を1人にしたくなかったんだ。けど、全てデーモンが俺の最期の希望を奪った。だから、俺は和純に会うためにこの意識世界で待っていた」

俊也の姿が段々透けていく。

「和純。どんなことがあっても戦え。諦めるな。そして死んでも剣を離すな」

俊也は必死で和純に訴えかけた。

「じいちゃん!!」
「いいな?デュエルを思い出すんだ。臆するな。それと、自分を信じろ」
「はい」

消える直前、俊也は一筋の涙を流してこう言った。

「さようなら…」
「やだよ。また現れるよね?そうだと言って」
「時間切れだ。今までキツい言葉ばかり言えなくてすまなかった」
「そんなことない!!じいちゃん…大好きだよ」

それを聞いた俊也は、僅かに微笑んで消えてしまった。

「残念だったな?」

デーモンの言葉は彼にはもう聞こえてなかった。

そう、和純は自分の力で意識世界を抜け出したのだ。







黒龍の懐に眠る和純はようやく目を覚ました。

「じいちゃん、僕やるよ」

和純は、瞬間移動でレバインの元に戻った。

「和純!!」
「すみません。遅くなりました」
「全くだ。だが時間はあまりないな」
「はい」

2人は、黒龍を挟むようにアイコンタクトで左右に分かれた。

「1」

「2」

「3!」

レバインの合図で、2人は瞬間移動を始めた。

黒龍は、2人の気配を呼んで『無効化』を発動した。

すると、和純達は動きを止められてしまった。

「残念だが、和純よ。お前が見た意識世界はほんの一部にしか過ぎん。だから、それを弱みと勘違いして攻撃されても何も感じないが?」
「………」

黒龍は巨大化した。

そして動けない和純を掴んだ。

「ふふふ。お前などこの俺様からしたら虫けらに過ぎん」

黒龍は和純を握りつぶすために握力を加えた。

その間、レバインは黒龍の呪縛を解いて、彼の背後を剣で切りかかった。

だが、微量の気配さえ黒龍は感じ取り、レバインを地面に突き落とした。

「レバインさん!!」
「おっと、他人の心配する余裕などないはずだが?」

黒龍は握力と自分の手に電圧を加えて、和純の体に電流を浴びせた。

「ぐっ…」

和純の顔が苦痛に歪む。

「ふははははは!!いいぞ!その顔。実に快感だ。ゾクゾクする!!」
「和純ー!!」

レバインは剣を構えた。

「何度も言うが、その剣で切りかかったとしても、和純の命など助からん!!」
「レバ…インさん。僕のことは構いませんっ。だから、早く!!」

だがレバインは良心が痛んだ。確かに和純は恋敵で、デーモンの血が流れている。

(けど、私は和純を信じている。彼だけを見殺しにすることはできない)

彼は剣を下ろした。

「な…なんで…」

酷く落胆する和純に、レバインは苦笑してこう言った。

「お前が死ねば悲しむ家族がいるだろ?」
「でも…」
「黒龍よ。和純の代わりに私を…」

レバインは和純の身代わりになろうとした。

「駄目だよ!!レバインさん」
「どうして?私の死など誰も悲しまん」
「僕は悲しい!!貴方が死ぬと悲しい…」
「どうしてお前はそこまで…」
「僕は…貴方がいたから、戦う勇気が沸いたのです。だから貴方だけを見殺しにはしたくない」

2人の気持ちは一緒だった。

だが黒龍は容赦無く、和純を苦しめていった。

「和純!!」
「レバインさん…僕が死んだら、瑠宇に…言ってほしいことがあるんです…」
「馬鹿!!縁起でもないことを今言うな!!」
「レバインさんなら、瑠宇のことちゃんと愛してくれるから。僕がいなくなったら、瑠宇を…」
「ふざけるな!和純。瑠宇は完全にお前しか見ていない。今死ねば瑠宇は生ける屍になってしまう!!」
「ごめんなさい…」
「だから、生きることを諦めないでくれ!私のためにも」
「………」

和純は意識を失った。

「和純ー!!」

レバインの悲痛な声が、クリスタルキャッスルまで響いた。

衛と遼はほぼ同時にこう感じた。

(何か悪い予感がする)

すると、城内に一人の女性が現れた。

「ルーク、行くわよ」

その声にルーク達は振り向いた。

「あの子達が頑張ってるもの。私達が何もせずにじっとしているのは、もどかしすぎるわ」
「けど…雅也も玲奈も意識を取り戻さないんだよ弥生」

すると透と操がこう言った。

「彼等は俺達が看ます。だから貴方方は、白百合の花畑へ至急向かってください」

衛達は武装して、和純達のいる白百合の花畑へ向かった。


だが、結界が張り巡らされているので、中に入ることができない。

「遼、幸次さん、弥生ちゃん、ルーク」
「あの技を使うんですね」
「あぁ、なるべく早くにね」

5人は、衛の合図と共に、結界の回りに移動した。

そして彼らの印が現れた。

『破光弾!!』

5人の体が急に光り出して、分厚い結界が破れたのだ。


だが、2人の生気が感じられなかった。

黒龍に気付かれないように細心の注意を払って、2人を探した。

手折れた白百合の中に和純の姿があった。

衛と遼は絶句した。

彼の衣服はほとんど破けてた。そして素肌には痛々しい火傷の傷跡が鮮明に残っていた。


一方、レバインの行方が分からなかった。

白百合の花畑のとなりにある海に彼が身に着けていたであろう赤いマントがあった。

ルークは、それを握り締め、悲痛な顔をした。

黒龍は、その気配に気付いたが、何も言わなかった。そして何もしなかった。

なぜならば、レバインと和純以外には全く興味がなかったからである。そしてレバインと和純が倒れた瞬間、この世界は本当に彼の手中に入ったことを確信したからである。

それでも衛達はそうとは思わなかった。例え、そうであっても彼等の傷を癒すのが最優先と考えたからだ。

ルークは全員に合図して、瞬間移動を唱えた。








クリスタルキャッスルに運び込まれた時、操と透も和純達の成れの果てに絶句した。

「やはり、黒龍には敵わなかったのだろうか…」

ルークは、半分諦めた口調で言った。

「もう戦える人間は後1人しかいない。でも瑠宇1人に任せるのは、あまりにも酷な話だ」

すると隣りで聞いていた、棗は景に意識交信をした。

「カカシ、戻ってこい」
『なんでですか?バーベラ先輩』
「理由は後で話す。至急『瞬間移動』を使え」
『了解致しました』

意識交信してすぐに景は、クリスタルキャッスルに戻ってきた。

「バーベラ先輩、訳を話してください」
「みんな意識がないんだ」
「え?」

景は辺りを見渡した。

「礼さんも、オバケ先輩も、お兄さんも玲奈さんもですか?」
「あぁ、だから今こそお前の力が必要なんだ」
「でも、私の力はほとんど使い果たしたんです。最果ての町の難民のために」

すると、幸次が景にこう言った。

「助けたって?景は優しい子やろ?それに、一緒に戦いたいって言ってたやん。だから、助けたって?」

景は、複雑な気持ちになった。確かに自分の力は治癒力がある。だけど自分の力に限りはあることを、誰よりも知っていた。

すると衛がこう言った。

「頼む。和純達をまだ失いたくないんだ!!」
「私も手伝うから…」

遼はトランスした。

景は決心したようにこう言った。

「白魔法、聖魔法が使える方は彼等に気を送ってください。それ以外の方は、彼等の傷の手当てをしてください。私だけの力じゃ助からないんです。お願いします」

景の言葉にみな動かされた。

白魔法が使える衛と遼と幸次と景はそれぞれに気を送った。

そしてそれ以外の者は、横たわる4人の外傷の手当てをした。

みんな祈る想いで、彼等が意識を取り戻すのを待った。

だが彼等の生命力はほとんど0に近くて、蘇生するにも時間がかかる。それに、いつ黒龍が攻めてくるかも分からない。

それでも彼等は、信じていた。何故ならば、自分達の子供だからだ。

また景はレバインに恩返しがしたかったのだ。だから彼女は諦めなかったのだ。

その様子を見た彼等は、自分達だけ諦めることができなかった。







夜が更けた時、風が吹いた。

その気配に気付いた景は、駆け寄った。

「瑠宇さん!!お願いです。力を貸してください」
「まさか、全滅したのか?」
「だからお願いします」

瑠宇は、横たわる4人を見た。

「私が、遅れたばかりに…」
「瑠宇さん…」
「景、レバインを頼んだ。私は和純を治療する。後、玲奈と雅也は直に起きる」

そこにいた誰もが彼女の言葉を疑った。

「なんでそれが言えるんだ?」
「生命の息吹を感じるんだ。だから、後は彼等だけの力で起き出す」

そう、瑠宇の五感は研ぎ澄まされていたのだ。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ