ー龍達の宴ー

□−受け継がれていく奥義−
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雅也は玲奈の頭をポンと置いた。

「玲奈ちゃん一番近くで守るためや。実はこれがほんまの理由」

玲奈はみるみる顔を赤く染めた。

「そりゃ、和純みたく圧倒的な力もあらん。はたまたレバインみたいなカリスマ性もない。でも、俺は玲奈ちゃんのためになら喜んで身を捧げる。その意志の強さなら誰にも負けへん」
「どうして、私なんかのために…」
「どうして?好きやからや。それにあんさんにはずっと笑顔でいてほしいからやで」

雅也は玲奈の頬を触った。

玲奈は彼のその手を両手で触れた。

「雅くん…」
「玲奈ちゃん、あんさんは俺が絶対に幸せにしたる。だから不安がらんといて?」
「それって遠回しにプロポーズを言ってるの?」
「プロポーズ?いずれはするで?」

玲奈の鼓動が早くなった。

2人の髪が風に揺られている。

「黒龍戦終わったら、俺は正式にスタイリストになる」
「この年で!?」
「資格はもうもらった。あんさんを養う金も充分ある」
「あなたがよくてもご両親が…」
「半分勘当された身や。なんも文句は言わん。でもあんさんとこの衛さんと遼さんは厳しいと思うわ」
「………王族だから?」
「あぁ。まあでも、あの2人も駆け落ちした人間や」
「本当?」
「和純から聞いた。だから、大丈夫やろ」

玲奈は空を見た。

「早くこの空に太陽がよみがえればいいんだけど」
「そやな。ずっと太陽見てないしなぁ」
「私達もお兄さん達をサポートできたらいいのに」

すると雅也は、ズボンのポケットにある紙を渡した。

『魔方陣の作り方』

というタイトルの文章だった。

「純平さんから、玲奈ちゃんに渡してもらうよう頼まれたんや。俺らは武士系とちゃうから直接的攻撃は不利やけど、ここの国の人ら守るんやったら魔法系が必要やからな」

玲奈は雅也が持っている紙切れを見た

「『魔』を持つもの北へ、『闇』を持つもの南へ。この『』内は印のことかしら?」
「そやな。俺が『魔』玲奈ちゃんが『闇』や」
「でも黒龍と私は同じ属性だよ?」
「毒を持って毒を制すると同じことや。闇同士なら抑制はできるからな」
「へぇ初めて知った」
「さて、いったんその紙切れの通り並ぼか」
「うん」

雅也は、バルコニーの北側に立ち玲奈は真反対の方角の南側に立った。

雅也は続けて紙切れの文字を呼んだ

「両腕を肩の高さまで、広げて『魔方陣・闇包み』を同時に唱える」
「やってみるわ」

2人は、両腕を広げた。
「『魔方陣・闇包み』!!」

すると2人の間のちょうど中心に位置する所から、小さな魔方陣が生まれた。

「しょぼ!!」
「でも、これは確かに闇包みの魔方陣だわ」
「でもあないでかい黒龍には、全然きかんし」
「違うわよ。人間が入れないようにする魔方陣なのよ」
「なるほど。一般人は入れんわけやな」
「そう。これは多分黒龍包囲網の魔方陣。でも…」

玲奈の顔がみるみるうちに曇りだした。

「この魔方陣は2人の精神力をかなり使うの。だから、体力もかなり消費する。いまなら持って5分しか魔方陣を保てない…」

すると雅也はそんな玲奈の肩をポンと叩いた。

「黒龍戦が来るまで、その持続時間伸ばせるまで伸ばそ?」
「でも…」
「俺も頑張るから、玲奈ちゃんも一緒に頑張ってほしいんよ」
「うん!もう一度続けよ」

2人はしばらく魔方陣を保つ練習をした。


一方、純平達は地下室で会議を行なっていた。

「えっと、衛でいいんだっけ?」
「はい」
「ならいい」

純平は、ホワイトボードに何かを書き記した。

「いま、黒龍のオーラは白百合の花畑で止まっている。しかし猶予はあと2日。そこでだ。万が一に備えてカール氏が来てくれた」

名前を呼ばれた男は、柔和な笑みをたたえてこう言った。

「ご紹介預かりましたカールです。いまから、緊急対策を説明します。あさってこの城に攻め込まれた場合、ここの従業員には、さいはての町に緊急用ジェット機を人数分だけ用意しています。あと、国民の方々の安全の確保にトニーズ客船でさいはての町に行かせます」

すると遼が反論した。

「でもさいはての町が完全に黒龍の範疇外とは思えません。なんせ黒龍はこのクリスタルワールド全てを殲滅しようともくろんでいますから」
「しかし、さいはての町はドラゴンの足でも最低15時間掛かります。また幸い彼は暗黒魔法師なので、瞬間移動もできません」
「ですが…」
「私達は、臨機応変に動かなければなりません。ここにいれば、すぐにでも黒龍は滅ぼしに行きます」
「クリスタルキャッスルは狙われてる!?」
「えぇ、クリスタルキャッスルを拠点に暗黒世界を作ろうともくろんでいるとの情報を国民から聞きました。なので比較的安全な場所に連れていくのが一番かと」

衛は、純平にこう言った。

「国民は避難させるが、俺達は…」
「衛、遼には大切な役割がある。カール氏から聞いてくれ」

衛と遼はカールの顔を見た。

(あれ?この顔どこかでお会いした気が…)

「何か問題でもありましたか?」
「いや、あなたの詳しい名前を聞いてなかったので、つい気にしてしまいました」
「私はネウロ・カールです。まさか衛さんと遼さん気付いてくれなかったんですか?」

すると衛があることを言った。

「カール、戦いが終わったら会ってほしい人がいるんだ」
「え?なんで」
「実は、お前の娘見つかったんだよ」

するとカールは目を爛々とさせた。

「あの子がまさか生きていたのか?最後に別れた時は深い森の中で探しても探してもあの子はいなかった…。じゃあ今すぐ会わせてほしいです」

しかし遼は顔を横に振って否定した。

「今あの子は、世界を守るために必死なんです。だから今会ってしまえば集中力は絶対に切れます」
「でも…」
「あの子は、私のおいに育ててもらったそうです」
「あの礼くんがですか?」
「えぇ、礼は半ば誘拐したと言いました。ですが、礼が天空の城にあの子を連れて行かなければ、死んでいたかもしれません。だから彼を責めないであげてください」
「誘拐したことは許されたことじゃない…」

するとカールはレバインの気配を察知した。

「ここにいるのは誰だ」
「レバインです。まさかあなたが来るなんて思いませんでした…」

カールはレバインの目を凝視した。

レバインは逸すことなくカールを見た。

「うちの娘をさらって何をした?」
「何も…」
「何故途切れる?」

カールはレバインに詰め寄る。

「いえ、何度か手をあげたりはしました。でも、あなたが考えるほどひどいことをしてはいません」
「それでも、君は確かに俺の娘を誘拐した。だから…」

レバインはカールの言葉を遮るようにこう言った。

「平和になったら断罪の旅に行きます」
「当たり前だよ。もちろん平和でなくともだ。後、瑠宇の精神状態を悪化させてた場合、時空追放もありうる」
「えっ?」
「初めて会うので、これを言うのはなんだが、最高裁判権を持つのはこの俺。だから俺の判断で君を裁く。でも、1つだけ礼を言わなくちゃならない」

カールはレバインの両手を握った。

「確かに誘拐という方法は許せなかったが、今まであの子を育ててくれてありがとう。でもこれからはタワーズキャッスルの第一王女だから彼女の名前の呼び捨ては禁止だ。いいね?」
「は…はい」

するとカールは衛達の方に目線を向けた。

「話を逸らせてすみません。いまから女性・年配者のジェット機を動かします。衛さんはこのことを従業員のみなさんに伝達してください」

衛はすぐにメイド達に知らせた。

メイド達はそれぞれの船に乗った。

そして衛達は、いつもより晩餐をとった。

いつもより閑散として不気味だった。

誰一人口を開く者がいない。そう明日が来れば、平和か滅亡かを自分達で判断しなければならない。

とてもそのような状況で、口を利ける者はいない。

レバインと和純は先に食事を済ませて、決闘室に向かった。

雅也と玲奈は城の屋上に向かった。

瑠宇は純平に呼び出されて、2階の客間に連れていかれた。

「まさか君が、あのカール王の娘だったなんて」
「驚いた?」
「いや、別に。それより、瑠宇は人外の髪の色をしているが、何者なんだ?」
「それはこっちのセリフだ。あんたは時空追放の身でもないのに、何故1000年後のこの世界に来た?」
「質問に答えてはくれないんだな」
「あんたが、理由を言ったら言う」

瑠宇は純平を見上げた。

「俺は女房から背中を押されたんだよ。俊也や姉さんの跡を追うなら今しかないって」
「じゃあ平和になれば」
「女房のもとに帰るさ。そしてこのことを女房に知らせる」
「なるほど」
「理由はちゃんと答えたから、今度は君の番だ」

瑠宇は両手を合わせた。

「後ろ向いててくれるか」
「分かった」

瑠宇は力を溜めた。

すると髪の毛が逆立ち、彼女の体全体が白く光出したのだ。

そして彼女の足から鱗が発生し、完全に獣の足と化した。

また背中には眩いほどの銀色になびく翼が生えている。

「これが私の秘密だ」

純平は彼女の方を向いた。

「瑠宇も龍人族だったのか」
「あぁ、ネウロ一族は銀龍の龍人族だ。また、徳川漣もその1人にあたる」
「…そうか。このことを他に知るものは?」
「レバインだけだ。和純にはまだ知られていない」
「知られると怖いのか?」
「それはない。だがこの格好は未完成なんだ」

確かに足から股関節までは龍の体をしているが、上半身は人間そのものなのだ。

「私の本来の力は漣が持っている。もしも漣が来なければ…」
「ここの世界は終わる。そう言いたいのだろう。しかし、漣はドラゴンキャッスルにはいないはずだろ?」
「いや、来るよ。黒龍戦には必ず漣はくる」
「その証拠は?」
「同じ銀龍の匂いがずっと遠くでしている。それが何よりもの証拠だ」
「いずれは君も龍に変わるのだろう」
「そうだな。ちょっとこの格好は慣れないが」
「だろうな」

瑠宇は元の姿に戻った。

「いよいよ明日だ。平和になればあんたは、何を願う?」
「……願う?さあな」
「願い事はないのか?」
「ただこの世界に大きな波乱がなくなることを願うよ。あとはもう望まない」

純平はそう言うと、1人で客間を去った。

瑠宇は、明日に備えて寝ることにした。

それぞれ向かう結末の前日は、あまりにも静かで穏やかな日だった。
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