ー龍達の宴ー

□―操られた遼―
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俊也は春代に安心させるように話し掛けた。

「春代」
「はい…」
「怖くない?」
「大丈夫」

しかし春代は、かなり切羽詰まっていた。

「落ち着け」
「うん」
「打開策ならある」
「でも、この状況じゃあ」
「分かってる」
「動かないで、罠よ!!」

俊也は目を見開いた。

「ついにバラしてしまいましたね」
「どういうことだ!?」
「………」

遼は瞬時に、春代の喉元にナイフを突き刺した。

春代の喉元からは赤い鮮血が流れた。

「動いても動かなくても、彼女は死ぬ運命にあるんです」








一方、医務室に戻った雅也は瑠宇にこう言った。

「あんな遼さん遼さんやない…。前に見た遼さんは確かにやつれてたけど、衛さんや和純のこと心配してた…」
「つまり操られてると言いたいんだな」
「そや。和純が死んでから不吉なことばっか起こる。空だってもう晴れたん見られへんし…」
「………」
「瑠宇、もうしゃあないて。和純もおらへんのやし…」

すると瑠宇は雅也の頬を3回ぶった。

雅也はあまりの痛さに驚いた。

「諦めるのはまだ早い!!それに和純は、あんたを信じていた」
「でも、こない日が経っても目覚まさへん。死んでへんって言う方がおかしいて」
「でも私は信じる。和純はまだ生きている。死んでなんかない!!」
「現実見ろや!!2週間も動かんかったら死んでるのも同然や!!」
「でも和純の体温はまだ暖かい!生きている証拠だ」
「それは、瑠宇がそう感じてるだけや!!」


雅也は、頑に和純が生きていることを主張する瑠宇の気持ちが分からなかった。

「いずれにせよ、和純はこの世にはおらん。はよそれを分かれや」
「………」
「俺やってな。和純が死んだんだな信じられへん。でも傷が深すぎて治療すら無理って先生らに言われた。そんとき、レバインをめちゃめちゃ恨んだん誰や?」
「確かに、恨んだ。でも、レバインだって…」
「そりゃあんたはあの人に世話になった義理があるから、口が裂けても殺しに行くなんか言わんけど、俺やったら真っ先に行くなぁ」
「やめとけ。お前がデュエルしても負けるだけだ」
「…分かっとるわそんなん」
「雅也、お前だけには和純が生きていると信じてほしいんだ」
「なんで…」
「和純の唯一の友人だからだ。そうでなきゃこんなこと頼まない」
「そうや。でも…」
「頼む…。生きていると信じてくれ!!」


瑠宇は、切実な顔をして雅也に頼んだ。


「なんでそない必死になれるん」
「だって…和純は世界で初めての友人だから」
「違うやろ?掛け替えのない人やからやろ」

瑠宇は、一筋の涙を流した。

「すまん…なんか悪いこと言ったか俺」
「…あぁ。おおいに」
「…すまん」
「…冗談だ。そうでもしなきゃ、冷静になれないからな」
「じゃあ、瑠宇も和純が死んだの認識してるんやね?」
「半分は。残りの半分はまだ死んでることを認識していない…」

瑠宇は、和純の手を握った。





その瞬間だった。

これまで、何も反応を示さなかった和純の手が瑠宇の手を握り返したのだ。

雅也はそれを見て、絶句した。

「和純…」

名前を呼ばれた和純はゆっくりと目を覚ました。

「和純!!」
「瑠宇…どうして泣いてるの?」
「死んでると思って悲しくて…」
「ごめんね。待たせたね」

和純は瑠宇の涙を拭った。

雅也は和純を見た。

「奇跡やな…」
「雅也、心配かけてごめんね」
「全くやで。死んでるのか生きてるんか瑠宇とついさっきまで、論争してたし」
「またケンカしたの?だめじゃない」
「ごめんなさい…」


和純は瑠宇の頭を撫でた。

雅也はあることを思い出した。

「和純、今な遼さんが来てるんよ」
「お母さんが?」
「でも、大変なことになっとるんや。一緒に来てくれんか?」
「…うん」

和純はゆっくり上体を起こした。

「傷は大丈夫か?」
「なんとかね」
「そっか。中川先生らが治療してくれたんよ」
「先生が!?」
「ん。会ったらお礼言わなあかんで」
「うん」


和純はパジャマから軽装に着替えた。

そして3人は急いで、王室に向かった。

そこには凄惨な光景があった。

春代は血まみれで、俊也も横たわっている。

「じいちゃん!ばあちゃん!!」

和純は、春代と俊也を揺すった。

しかし全く反応がない。

和純は、酷く冷静に雅也達にこう言った。

「2人を医務室に」
「まさか、一人でやる気か?」
「うん」
「無茶やて!!」
「いいから早く、2人を医務室に運んで!!」

和純のあまりの迫力に、雅也は、何も言えなかった。

そして雅也は春代達を担いで医務室に行った。

「瑠宇、サポート頼む」
「分かった」


瑠宇はもしもの時のために、クリスタルスピアを持ってきた。

それを和純に手渡した。

「ありがと」
「油断するなよ?」
「うん」


その瞬間だった。


黒龍を背に遼が和純の目の前に現れた。

「生きていたんだな」
「えぇ。でもあれはあんまりでしょ?」
「2人を殺したことか?」
「まさか…あなたが殺したんですか?」
「その通りだ」
「どうしてそこまで、やる必要があったんですか?」
「私を追放したからだ。私は何も悪くないのに!!」

遼はどす黒いオーラに囲まれた。



「それは違う!!」

和純達は、その声がした方向に振り向いた。

「お父さん!!」


衛がそこに立っていた。
なんと彼は玲奈を背負って、自力でデーモンロードを脱出してきたのだ。

「瑠宇ちゃん、玲奈の手当てを頼んだ」
「はい」

瑠宇は玲奈を医務室まで運んだ。

「和純…生きていたのか?」
「えぇ…なんとか。でも、じいちゃん達が…」
「父さん達が?」
「殺された…」
「なんだって!?」
「母さんが…」
「遼が」
「2人を殺した」
「どうして?」
「追放されたからだよ!!」
「…分かった。和純は玲奈のそばにいてあげて」
「でも…」
「頼む。唯一の兄妹だろ?」
「うん。お父さんも…」
「俺は大丈夫だから」


和純は、クリスタルスピアを渡した。

「いや、いい。それはお前が持ってなさい」
「でも…」
「なるべく穏便に済ませたいのだ」
「けど、お母さんのオーラが…」
「分かってる。だから、早く行け」


和純も医務室に向かった。







一方医務室では、透達が春代達の容態を調べた。

「これはかなり酷いな」
「どういうことですか?」
「春代さんの場合は、大量出血でもう体が冷え込んでる」
「俊也さんは?」
「………」
「俊也さんは!?」
「多分何か無理をし過ぎて…」
「それって過労死ですか?」
「………」
「どうして言葉を詰まらせるんですか」

すると操が、雅也達に本当のことを言った。

「だって、あんな優しかったハルクが…」
「遼さんが?」
「2人を殺すなんて信じられない。絶対何かの間違いだって思いたいからさ」


すると、和純がやってきた。

「佐伯!!生きてたのか」
「はい。中川先生…ありがとうございます」
「もう無理かと思ったんだ。でも瑠宇ちゃんがずっとそばにいて、手を握って気を送り続けてくれた甲斐があったな」

和純は瑠宇を見た。

「ありがとう瑠宇」
「パートナーだから当たり前だろ?」

瑠宇は照れ笑いをした。

「それはそうとして、2人は…」
「現代医学でも治療するのは難しいよ。でも2人はまだ生きている」
「殺されたのに?」
「多分俊也さんが、春代さんをかばったんだろうね。彼は肩に少し傷を負ってる」
「…どうすれば治りますか?」
「春代さんの場合は、輸血。確かB型Rマイナスだったね」
「AB型じゃなくて?」
「そ。ここにB型Rマイナスの血液を持つ子はいるか?」
「俺はAB型のRプラスや」
「私はB型のRプラス。透はAB型のRプラス」
「僕はA型のRマイナスです」
「瑠宇は?」
「私はO型のRマイナスαGG」
「αGG?」
「龍人族に見られる血液の形だ」
「…となると結合者は0か」

透がため息を着いた。

「確かお父さんがA型Rマイナスでお母さんがAB型Rマイナス」
「B型Rマイナスはいないのか…」


すると隣りのベッドに眠っていた玲奈が、目を覚ました。

「ここは…」
「おはよう。玲奈ちゃん、ここはクリスタルキャッスルや。地上世界やで」
「雅くん…」
「初めまして、俺は中川透だよ。佐伯の双子の妹さんだよね?」
「え…はい。あの、みんなして何話してるんですか?」
「血液の結合者。春代さんの血が足りないから輸血しようと思って」
「で…その人は何型ですか…中川さん」
「B型Rマイナス」

玲奈は、目を見開いた。

「私もB型Rマイナスです。でも血縁関係じゃなかったら適合する可能は低いと思います」
「いまから、査定するから」

透は、春代の喉元の血を拭き取った。


玲奈は、ピアスに付着した血を透に渡した。


すると、透は医務研究室にそれを持っていった。

「あの…他のみなさんは?」
「中川の家内の操だ」
「和純の友人の島野瑠宇だ。会うのは初めてだな玲奈」
「うん。でも初めて来たところだからイマイチ状況が掴めてないの」

すると雅也が説明した。

「実はな紅龍が死んで、次期紅龍を守らないとあかんねん」
「紅龍?」
「このクリスタルワールドの平和を司る伝説の不死鳥」
「それでどうして私を?私はデーモン側の人間よ」
「今はそう言ってる暇はないんよ。玲奈ちゃんは種族は闇かもしれへんけど、良心は十二分にあるし。それに何より強い意志を宿した瞳を持ってる」
「つまり力になってほしいのね?私に」
「そうや。俺らには玲奈ちゃんの力が必要や」
「………分かった。ただし条件があるわ」
「何?」


玲奈は雅也の耳元で、こう言った。

「私のパートナーとして、サポートしてよ」

その瞬間、雅也の顔が真っ赤になった。

「だめなの?」
「いや…そんなわけあらへんやん」
「雅也赤くなってるぞ」
「いややわ。そんなんなってないし」
「とにかくお願いね?頼れる人雅くんしかいないから」
「分かった。精一杯サポートさせてもらいますわ」
「良かったね。玲奈」
「うん。お兄さんも誰かパートナーいるの?」
「いるよ。瑠宇だよ」

今度は瑠宇が顔を赤らめた。

それを操は微笑ましく見守ってた。

すると透が研究室から戻ってきた。

「2人の血液は適合したよ。玲奈ちゃん、今日でもいいか?」
「かまいません。ただ春代さんは私と関係する人間ですか?」
「うん。君のばあちゃんだしな」
「私のおばあちゃん…」
「俊也さんは君のじいちゃんだよ。だから、助けてあげて」
「分かりました」


すると和純と瑠宇は別室に行った。

「瑠宇」
「ん?」
「世界は破滅させないよ」
「あぁ」
「それに自分に約束したんだ」
「へ?」
「大切な人のために平和を守る」
「和純の大切な人って両親か?」
「それもあるよ」
「他には」

すると和純はいきなり声のトーンを下げた。

「瑠宇だよ」
「…え??え〜」
「瑠宇がいるこの世界を守りたいからさ」

そう言うと、和純は医務室から出ていってしまった
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