ー龍達の宴ー

□ー龍達の宴ー
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その時だった。

俊也のオーラがどす黒く光ったのだ。

何事かと思った和純は、俊也に駆け寄ろうとした。

「来るな」
「でも…」
「俺…まだ抜けきってなかったのか?」
「え?」
「いや、なんでもない」

しかし、俊也の目がたちまち赤く染まっていく。

和純は、剣を構えたまま硬直してしまった。

俊也は、自分の異変をただの異変だと思わなかった。

だが、いまここで真実を話せば、確実に和純は動揺してデュエルに集中できなくなる。

彼は必死で、平然とこう言った。

「始めよう」

2人は、再び剣を構えた。

「始め!!」

和純は、俊也のただならぬオーラに、押され気味なのだ。

その証拠に、さっきまで互角だったのが、一方的に攻められている。

しかし、和純は決してあきらめなかった。


2人の拮抗が激しくなっていく。

剣のぶつかる音。

互いの見る恐ろしいまでの視線。

そして、それは常人の肉眼では見ることができないほどの速さ…。

(このままだと、じいちゃんが…)

和純はとっさに俊也の身の危険を案じた。

しかし当の本人は、お構い無く和純の剣を弾こうとする。

「じいちゃん!!」

その声に我に返った俊也はいつの間にか、和純の剣を弾き飛ばしてたのだ。

和純はその拍子に尻餅をついた。

「………」
「俺、勝ったのか?」
「勝ったも何も、剣弾き飛ばしたし…」

どうやら俊也は、トランス時の記憶がないらしい。

いや…あるにはあるが、ほぼ無意識に体が動いていたと言う方が正しい。

「やっぱりじいちゃんは強いなぁ…」

俊也は、否定した。

「どうして…」
「あれは恐らく…」
「恐らく?」
「トランスとは違って、生理的な何かが俺をそうさせた…」
「まさか…」

そのまさかだ。

黒龍が、もうこの地上世界に来ているのだ。

「前にも言ったが、俺は黒龍の血筋にある人間だ。だから黒龍が君臨した時…本能でトランスしてしまう…」
「だから、覚えてなかったんだ」
「あぁ。そういえば、2回目のデュエルから今まで何分経った?」
「約30分…」

すると、俊也は和純の手を引っ張って彼の体を起こした。

「あのトランス状態の俺相手に、30分も戦えたなんてすごいじゃないか」
「でも負けは負けだよ…」

和純はうなだれた。

「いや、お前は、その時トランスしなかったんだ。だから、互角にやりあえば分からなかったぞ」
「…じいちゃん」

俊也は、和純に握手をした。

「最初はどうなるかと思ったが、やはりお前は剣士系だな」
「………」
「意外とやるじゃないか」

褒められ慣れてない和純はここでも、くすぐったい気分になった。

「それに自分に自信を持てよ」
「うん」

すると、ドレス姿の瑠宇がやってきた。

「和純、デュエルが終わったら、着替えろよ」
「う…うん」
「行くんだな?」
「うん」
「なら餞別にこれを」

俊也は、和純に青いリボンを渡した。

「これは…」
「昔、じじいがしてたリボンだ」
「ジュニーさんの?」
「あぁ、見た目はただのリボンだが、何かの時に役に立つらしいぞ」
「ありがとう…。それと今まで、デュエル指導ありがとうございました」

和純は、深々と頭を下げた。

「こちらこそな。俺は疲れたから、しばらくはデュエルできんぞ」
「…はい」
「和純、礼によろしくな」
「は…はい!」

和純と瑠宇は決闘室から退出した。

そして、すぐに和純は風呂にもう一度入ってから、彼の部屋で、正装を身に纏った。

瑠宇は、和純の髪を後ろに束ねて、青いリボンで結んだ。

後から、やってきた衛達が和純達を王室に連れて行った。

「こうして見れば、れっきとしたプリンス様やなぁ」
「………」

和純は恥ずかしさのあまり、顔をあげることができない。

ジュニーは、和純の束ねているリボンを見た。

「これ…俺のだ」
「ごめんなさい…お借りします…」
「いや、似合ってるからいい。それに和純…」
「はい」
「後で話がある」
「はい」

すると、俊也と春代も王室に来た。

「なかなか男前じゃない、和純」
「そうかな…」
「今日は、あなたにとっても大事な日なのよ」

春代の言葉に、和純は首を傾げた。

「なんで?」
「礼が…」
「レバインさんが?」
「あなたを敵と見るか、味方と見るかで、世界は180度変わってしまうからね」

それは平和か破滅かだ。

「う…うん」

和純はまだ実感していなかったのか、あいまいな返事しかできなかった。

「和純…ちょっと」

ジュニーは和純をバルコニーに連れていった。

「ジュニーさん?」
「今日は、ちゃんと楽しんでくれよ」
「………」
「死ぬと分かっても、最期ぐらいはな」

ジュニーは淋しい笑顔をした。

「じいちゃんには言った?」
「あぁ。言ったよ」
「あの件、許してもらえた?」
「なんとか」
「良かった…」
「和純」

ジュニーは真剣な目で和純を見た。

「どうか、俺達が亡くなっても絶望しないでくれ」
「え?」
「俺達がいなくなっても、お前が俺達を思い出してくれればいいから。心はいつもそばにいるから」

ジュニーは心なしか震えていた。

「本当は、死にたくない」
「………」
「死にたくないけど宿命なんだ。俺達がいずれ死んでもおかしくないんだ」
「………」
「けど、どこまでも悲しい宿命を避けて…避けたかった。でも生命あるものは必ず滅びる。滅びるのが条理なんだ。それを俺達は龍になってまで逆らってきた」


すると和純は、一筋の涙を流した。

「死ぬのは悲しい…。悲しいけど…」
「悲しいけど?」
「当たり前なんだよね?みんな命あるものは、死んでしまう宿命なんだよね。でも僕も逆らっていたい」

ジュニーは目を見開いた。

「例え、黒龍が僕を再起不能にしても僕は死にたくない」
「和純…」
「だから、最後までその宿命に逆らってみてはどうかな?」

ジュニーは和純の髪の毛をわしゃわしゃと触った。

「それもそうだな。悲観的になるのは俺の悪い癖だ。ありがとう、和純。すごく勇気が沸いた」

ジュニーは満面の笑顔を和純に向けた。

和純も涙を拭いて笑顔になった。

「ジュニーさん、僕も頑張るよ!だから最後まで諦めないで」
「うん」

すると瑠宇がニヤニヤしてやってきた。

「和純がそんなこと言うなんて珍しいなぁー」
「聞いてたの?」
「まあな。さて時間も迫ってきたようだし、行こうか」

ジュニーは、聖龍に変身した。

そして2人は聖龍の背中に乗った。


「瑠宇…」
「ん?」
「似合ってるよ」

瑠宇はとたんに顔を赤く染めた。

「あ…ありがとうな」
「うん。僕…頑張るよ」
「そうか」
「瑠宇…頼んだよ」
「え?」
「サポートだよ。僕の」
「うん、やってみる」

2人は空の彼方へいく途中他愛もない話をしていた。


一方、衛と雅也は闇の狭間の結界が弱まった瞬間に、デーモンロードに入った。

その頃、俊也は救護室にいた。

(やはり黒龍君臨の日は今日だったのか…)

そばには、春代がいた。

「春代…」
「………」
「俺の闇属性の力、封印しきれてなかったのか?」
「えぇ。黒龍が死なないかぎりあなたはずっと闇属性に侵されるの…」
「…何故…何故なんだ?」
「…分からない」
「なら、出て行ってくれ」

春代は目を見開いた。

「嫌よ」

彼女は思いっきり顔を横に振って拒否した。

「前にも言ったが、もし俺が黒龍になったら……」
「なったら滅ぼすの?」
「…あぁ。もう俺が俺でなくなる…。だから逃げて…出ていって…」

すると、春代は憤怒して俊也の頬を渾身の力でビンタした。

「春代!?」

俊也は突然のことに驚いた。

「私が何のために1000年後までついてきたと思ってるの?」
「それは漣や棗やハルクのためだろ?」
「それだけじゃない…。あなた言ったよね?『そばにいて』って。だから私は最期までそばにいるって決めたのに!!」

春代は、もう一度俊也の頬をビンタしようとした。

俊也はその手を掴んだ。

すると微かに彼女は震えていた。

よく見ると春代は、泣いていた。

「俊也…黒龍になるならなりなさいよっ。そしたら、もう一度封印してあげるから!!」
「…ごめん」
「え?」

俊也は春代を抱き締めた。

「春代、俺は黒龍にはならない」
「………」
「トランスするかもしれない。でも制御できるから」
「制御できなかったら?」
「その時は、俺を殺してくれ」

春代は反論しなかった。

「それがあなたの望みなのね?」
「あぁ。誰にも殺されたくない。けどもし俺が黒龍ならば、お前が殺すのが一番いい」
「………」
「それが嫌なら…」
「分かった。でも俊也は黒龍になんかならない。黒龍なんかじゃないよ。だって本当の印は『真』なんでしょ?」
「あぁ…」
「だからどんなに闇に侵されても、俊也は俊也のままだから…ね?」
「ありがとう。…春代、デュエルのし過ぎであまり動けないんだ。眠らせてくれるか?」
「分かった」

春代は、俊也に布団をかけた。

日が沈みかけた頃だった。

春代は、俊也の寝顔を見ながらこう思った。

(黒龍が死滅しないかぎりこの人の苦しみや悲しい宿命は変えられない。かといって私はもう現役から離れた身…。やはり和純しか黒龍に敵う者はいないのかな…。いや和純でさえあの黒龍は敵わない…。一体どうすれば、平和とこの人の心の安らぎは手に入るのかしら……)

気が付くと春代は俊也のそばで眠ってしまった。

一方、和純と瑠宇は飛龍の里に到着した。

すると、レバインが瑠宇を連れていってしまった。

和純と聖龍は、ドラゴンキャッスルに向かった。

瑠宇は、レバインに連れられて、彼の部屋に入った。

「久し振りだな。瑠宇」
「そ…そうだな」
「和純の様子は?」
「へ?」
「だから闇属性とかに染まってないかどうかだ」
「それなら大丈夫だ」
「ひとまず安心した」

すると、レバインは真剣な顔をして言った。

「瑠宇は和純が好きなんだな?」
「……うん。好きだ」
「だが、和純は恋愛感情を持たない人間だ」
「それも分かっている」
「わざわざ叶わない恋をしても空しいと思わないか?」
「思わない。叶えようとは思わない。ただ和純がいればそれだけでいい」「そうか…そうなんだ…」

レバインは、苦笑した。

「もし瑠宇が私を好きでいたら、紅龍になっても構わなかったのにな…」
「けど、私は和純が好きになってしまった」
「私はいまでも瑠宇が好きなんだ。例え叶わない恋だとしてもな…」
「さっき空しいとかなんか言わなかったか?」
「確かに言った。時々空しくなる」

すると瑠宇は、とんでもない発言をした。

「3年後までに、和純が私に好意を抱かなかったら、レバインのプロポーズを受け取る」
「それがプロポーズの答えか?」
「あぁ、そうでもしなきゃ本当に空しくなるからな」
「私にはむしろ嬉しい話だが、お前の気持ちに揺らぎがなかったら、結婚できなくなるぞ」
「いや…構わない。だけどもし、3年後までに和純が私に好意を抱いたら…」
「デュエルをする。それが向こうの国のしきたりだからな」
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