ー龍達の宴ー

□―戦闘へのロード―
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ジュニーは、和純めがけて剣を弾こうとする。

和純は音だけで、彼の気配を捕らえた。

そして剣のぶつかる音がする。

和純は剣を振り飛ばされないように必死に剣を握っている。

ジュニーは、いったん和純から離れようとした。

しかし、和純がジュニーを追うのだ。

ジュニーは和純を少々侮っていたが、その動きで気を引き締めた。

そして彼は、勝負を決めるためジャンプして、和純の剣を弾き飛ばした。

「くそ・・・」

次第に和純の闘争本能が引き出されるようになった。

「もう一度やるぞ」
「はい!!」

和純が剣を握りなおすと、2人はまたデュエルを開始した。

その様子を、衛と俊也が外から見守っていた。

「目隠しとは、なかなかユニークな方法だな」
「あぁ、自分では分かってないが和純は明らかに戦士系タイプだ」
「父さんもそう思う!?」
「まあな」

俊也は、和純の様子を見てこう言った。

「やはり見えない相手だと、危険を感じるから和純には向いた方法なんだな」
「そうだね。にしても父さんが特訓を持ちかけたなんて意外だな」
「黒龍戦だから、やむをえなかったんだ」
「ふうん。にしても和純に相当入れ込んでるけど?」
「ん・・・昔の俺を見てるようでな」
「へぇ、母さんからはとっても非情な人だと聞いたけど?」
「春代と出会うもっと昔のことだよ。非情な人間かぁ。やっぱりそうなのかな」
「だって、出会いは拉致から始まったんでしょ!?」
「うん。でも今それを話すところじゃないだろ?」
「そう。じゃあ、あとでゆっくり聞かせてよ」
「衛は、この城を守ることだけに徹しろ」
「了解。その間、父さんはどうするの!?」

俊也は答えるのを躊躇した。

「そうだな・・・。俺は和純をサポートするさ」
「分かった。和純のこと頼んだよ、父さん」
「あぁ。お前はハルクともう一人の子を助け出してくれ」
「うん。明日からデーモンロードに行く」
「くれぐれも無茶をしないように」
「しないさ・・・」
「しただろ?前」
「あ・・・」

衛は、遼と1000年後に飛ばされたことを思い出した。

「あれは・・・」
「ハルクのせいか?」
「ううん。俺も彼女のこと幼いながらも愛してしまったし」
「なら、最後まで愛を貫けよ」
「うわ・・・とっても意外なセリフ」

俊也は、顔を赤らめた。

「だって、俺だって春代のこといまでも・・・」
「愛してるかぁ」
「当たり前だ。でなきゃ1000年後へ一緒にも時空移動なんかしないさ」
「でも父さんだって…」
「あれはだな。漣がここに連れてきたんだよ」
「兄貴…生きてるの?」

「あぁ…もう人ではない。前に見ただろ…」
「まさか……」
「それは、まだ和純には言うな。最後の切り札だからな」

つまり、漣こそが幻の銀龍らしい。

しかし、銀龍はここ数年行方不明だ…


一方和純とジュニーのデュエルは激化していた。

相変わらず、和純は劣勢だが息を全く乱さないのだ。

流石のジュニーも、肩で息を切らしてしまった。

「和純…」
「どうかしましたか?ジュニーさん」
「お前、息切れてないな」
「えぇ。伊達に掃除婦してませんから」
「なるほど…どおりで息を乱さないわけだ」
「休憩にしませんか?」
「いいのか?」
「えぇ。僕も疲れちゃいました…」
「嘘吐くなよ」
「え?」
「全然疲れてないじゃないか和純は」

すると和純は、目隠しを外してこう言った。

「いや…精神的に疲れちゃった。やっぱり暗闇って怖いんですね」

彼は苦笑した。

「明日もやるがいいか?」
「えぇ。お願いします」

2人は決闘室から出て、すぐに大浴場に入った。

ジュニーは和純を見た。

「ど…どうしたんですか?」
「お前、着痩せする方?」
「え…うん。分からないです」
「意外と筋骨隆々なんだな」

確かに、和純は毎日掃除婦という重労働をしているため、均整取れた体をしている。

「ジュニーさんだって…」
「あぁ、実は少年の時、俺はトレジャーハンターを目指してたしね。それなりに体を鍛えてたんだよ」
「確か…シリーズ本でリリアンさんは、トレジャーハンターを目指してシーフになってたと話があったんですが…」
「リリアン君ね。あの子が病気持ちでなかったら、私の娘も一緒に世界を飛び回ってたな…」

ジュニーは、遠い日の過去を思い出していた。

和純は、その話に興味を持ち始めた。

「ジュニーさんの娘ってどんな人でしたか?」
「2人いたよ。2人とも娘でね。リリアン君と関わりが深かったのが、長女の樹里で…。俺が言うのもなんだけど、樹里は美人だったな」
「へぇ」
「それと俺と同じ吟遊詩人で、でも性格は意外と行動的で頑固」
「頑固?」
「リリアン君の結婚を一度言われたんだ。俺、ハリル亡くしてショック過ぎて自殺しかけたの。それでね、リリアン君の余命があと2ヶ月くらいでさ…それでも樹里はリリアン君と結婚したいって…」
「結婚式を挙げることができたんですか?」

ジュニーは首を横に振った。

「いや、結婚式には間に合わなかった。でも樹里は偉いよ。ずっとリリアン君だけを想って、シングルマザーしてたから」
「生涯結婚しなかったんですね?」
「あぁ。いろいろと縁談を持ち掛けたが、すべてキャンセルされたんだ」
「なるほど…」
「樹里は死ぬまで、一途な子だったな。俺は、すぐに春樹を好きになったし…。あの子は春樹似だな」
「あの…春樹さんって話に出てた春樹さんですよね?」
「あぁ。気になるか?」

和純は、頷いた。

「じゃあ風呂に上がってからゆっくり話すよ」
「はい」

2人は体を洗ってから、大浴場を出た。

そして軽装に身を包み、ドライヤーで髪を乾かした。

「えっと…春樹と出会ったのは、リーがデーモンに封印されてまもなくだな」
「ハリルさんも封印されてたんですか?」
「あぁ、デーモンは手に入れたいものがあれば、手段を選ばないからな」
「それで春樹さんは会ったときどんな人でしたか?」
「そうだな。高熱を出した俺を、運び出してくれた。瞳は少しやさぐれてたかな」
「どうして?」
「彼女はピクトマンサーの能力があったし、彼女は幼い頃に母親を亡くしててね。お父さんが自分から離れていなかないように幽閉されてたんだ。だから、すごくやさぐれてたかな」
「…そうなんですか」
「でも、外の世界に行くと、すごく楽しそうにしてた。好奇心はあのメンバーの中では1番あったよ」
「メンバー?」
「うん。デーモンを倒すために、俺達もメンバーを組んだよ。春樹、夏希さん、秋美さん、シノ、俺」
「あの秋美さんも行ってたんですね」
「あぁ。当時はシスターだったな」
「デーモンを倒した後に結婚をしたんですか?」
「いや、春樹は一度ジパングに帰った。お父さんとの約束だって言ってたな」
「もしかしたら、ハリルさんのことを思って去ったかも…」
「後々考えてみるとそうかもしれない。春樹は、ああ見えていつも俺に気を使っていた」
「春樹さん…」
「でも、春樹は俺と会えたこと後悔してないって…」

ジュニーはそう言うと、夕日を見た。

「春樹と結婚式を挙げた日も、こんな夕日だったな」
「………」
「あの前夜に、俺と春樹は体を重ねた」
「それって…」
「和純。お前その系の話は、分からないか…分からないよな」
「ううん。雅也が教えてくれた」
「あぁ雅也か。なるほど」
「でも僕は一生しないと思う」

ジュニーは苦笑した。

「和純に好きな人ができたら分からないかもな」「好きな人なんかできないです」
「ふうん。将来どうするんだ?」

和純はその問い掛けに言葉を詰まらせた。

「結婚しない人生もあるけど、老後は淋しいよ」
「別に淋しくないです。だって僕は必要とされない人間ですから」

すると、ドアが開いた。

「聞き捨てならんな。和純」

その声は、雅也だった。

「必要とされてへん?そんなん嘘や。俺も瑠宇も和純んこと必要やで?」
「それは能力があるからでしょ?」
「ちゃうちゃう。みんなあんさんの人柄に惹かれてんて」
「僕の人柄?」
「あんさんは、俺らにとって不可欠や。だから必要とされてへんなんて淋しいこと言わんといて」「そうだぞ。俺達も和純と出会って、楽しみが増えたんだから」
「ジュニーさん…雅也…」

和純は、泣きそうになった。

雅也は、和純を抱き締めた。

「もう。そんなん言うとすぐに泣きそうになる。感動屋さんやね」
「だって…」
「それに決闘室で、頑張ってんの知ってるで。慣れんことばっかりやけどな…」
「僕、戦うよ。黒龍と戦う」
「そやな。俺も戦うで!」

2人は握手を交わした。

「龍達の宴頑張って行ってこいよ」
「うん」
「レバインが何か言ったら、俺んとここい。文句言いに行ったるわ」
「それは…」
「きついか?でも、和純けなす奴は誰でも俺達は許さへん。なあ瑠宇」

すると瑠宇がひょっこりと現れた。

「あぁ。だから、和純は和純らしく頑張れ」
「ありがとう。瑠宇」

和純は笑顔を見せた。

瑠宇も安心した。


そして、一週間が経った。

和純は、ジュニーの動きにだんだん適応するようになった。

最初は、瞬時に剣を奪われて負けていたが、だんだん時間が掛かるようになった。

そしてジュニーはこう言った。

「俺が教えられるのも、ここまでだ」
「え…」
「俺は元々戦士系じゃないからな。基礎しか教えてやれない」
「………」
「だから、明日から俊也に見てもらえ。彼なら、鍛えてくれる」
「はい」

するとジュニーは剣を構え始めた。

「だから、最後に本気でデュエルしようか」

和純も剣を構えた。

「はい」

2人はいっせいに、お互いの剣を弾こうとした。
しかし、2人の剣はなかなか弾かれない。

ジュニーは、正面からの攻撃をやめて、和純の背後に回った。

和純は、いったん止まった。

そしてジュニーが飛び上がったタイミングを見計らって、剣を振り上げた。

予想外の展開に、ジュニーは少し動揺した。

和純は、ジュニーの様子を見て確信した。

(これなら勝てる!)

ジュニーは、和純から離れた。

和純は、瞬時にジュニーの方へ向かった。

ジュニーは和純の軌道を外れるように、防衛の体勢を取りつつ、彼の死角に回った。

しかしそれが災いとなり、和純の剣が、ジュニーに襲いかかった。

ジュニーから見ても和純の姿は死角に入っていた。

(策にハマったか…)

そして、和純は初めてジュニーの剣を弾き飛ばしたのだ。

「勝った…初めて勝った」

ジュニーは立て膝ついて、こう言った。

「見事だ。やはり和純は戦士系だな」
「え?」
「俺達、吟遊詩人は様子を見計らいながら、相手と対峙するんだが」
「………」
「最後の和純は容赦なかったな」
「すみません…」
「いやいや、俺の気の緩みを和純は見事に読んだ。そして俺の剣を弾いた」
「でも、あれは偶然です」
「いや、そうじゃない。あの奇襲から、空気の流れが変わった」
「………」
「和純は俊也に似てるかもしれない…」
「どうして」
「心理戦に強いからだよ。俊也も人が怯んだ隙に猛追してくる人間だ」
「なるほど」
「とにかく今日はこれで終わりだ」

すると和純は、ジュニーに握手してこう言った。

「ありがとうございました。ジュニーさん」
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