ー宿命ー

□2人の旅
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俊也は髪止めのピンを外して純平にこう言った。

「俺と『春代』は、時代の歪みから生まれた異端な存在だった」
「本来なら、あいつは2代目の紅龍として生きるべきだった」
「それもこれも皆あのじじいのせいだ」
「そうとも言い切れないよ。『春代』がもし紅龍だったら、俺はジュニーU世と同じ運命を辿ることになってたね」
「だが…」
「それに『春代』はこう言ってた。歪みというのは必要悪なんだ」
「もしもデーモンとハリルが結ばれていたら…」
「間違いなく、『春代』と俺は出会わなかったさ」
「そして俺も春代と出会わなかった」
「だから必要悪なんだよ。まあどちらにせよ、俺とお前は救われたんだよ」

一方、2人の春代も同じ内容なことを城下町の噴水のベンチに座って話していた。

「ひいじいちゃんが、私達の運命を変えたのね」

春代がそう言うと『春代』がこう言った。

「いずれにせよ、俊也と私は真逆に生まれてくるべきやってん」
「性別?」
「そ。俊也はああ見えて家事が得意やし…」
「そうには見えなかったけど」
「よほど春代さんに甘えてるんやな。ほんま」
「そうなの?」
「気付かんの?あんたも鈍感やわ」
「私も?」
「私さぁ、俊也とルームシェアした時な全然あいつに恋心とか抱かんかったんよ。なんでやと思う?」
「え?」
「男やったからや。私が男であいつが女やったら分からんかったな」
「さっきは純平がって…」
「純平な。あいつは気さくやし女受けも良かったから、いつも不安やったわ」
「そうなんだ」
「それを俊也に話したら『好きな子には優しくできないんだ』って言われたで。その後な、純平に告白されたら同じこと言ってたわ。だから私も鈍感なんやと思う…」
「確かにね…。さっきは疑ってごめんなさい」

すると『春代』はこう言った。

「純平も春代さんが実の双子やと知らん間な、あんたに惚れててんて。ほんま浮気症やしな」
「でも純平はあなたのこと愛してるわよ」
「うん。毎日電話してくれてるしな。だから、春代さんの疑う気持ちも分かる。でも、俊也は純平と違って不器用で何より一途やから羨ましい」
「そんなことないよ。純平はああ見えて一途だよ」
「そうかな…」

『春代』は照れ笑いした。

「あのさ、なんで『春代』ちゃんも来たの?」
「新刊書かないとあかんのよ」
「『紅龍X』?」
「そうそう。春代さんあれ読んでるん?」
「もちろんよ。にしてもかなり克明に書かれてるわね」
「あれないろんな人に聞いてるし、じいちゃんが教えてくれるんよ」
「ハルV世?」
「そうそう。まだ生きてるんやで。未だに書物室で難しい本読んでるわ」
「羨ましいなぁ」
「そう言えば、リリアンさんの話してたで。すごい利発で悪戯大好きな人みたいやった」
「聞いたことあるわ。ばあちゃんに」
「確か樹里さんやったかな。春樹さんの子…」
「ひいばあちゃん…」
「あの人な、樹里さんが亡くなった3ヶ月後に亡くなってん」
「知ってる。それでひいじいちゃんも亡くなった…」
「ジュニーU世の場合は洗礼したんやけどな」
「洗礼?」

『春代』は彼女にこと細かく説明した。

「なるほど…」
「だから、あなたの息子もそれを知ってるはずよ」
「えぇ…」

辺りはもう暗くなっていた。

俊也が、2人を呼び出した。

「お前らいつまで話してるんだよ。夕食の時間だぞ」
「ごめんごめん。今すぐいく」

3人は宿に向かった。

すると純平がこう言った。

「姉さん、俊也」
「はい?」
「漣からの伝言だ。今すぐ、1000年後の世界に行けと」
「分かったわ」
「にしても突然過ぎないか?」
「確かにそう言った。すると、あの子にはもう子供がいる」
「まさか…」
「本当さ。ピースオールの本当の初代になる跡継ぎだ。しかし…」
「800年後にはこの美しい国もミスティレディの手で葬りさられる。またそれを守ったとしても、1000年後には黒龍が現われてこの国もこの世界もなくなってしまう…」
「だから、俺達を派遣したんだな」
「そう、棗がいる1000年後にな」
「なるほどなぁ」

後ろで聞いていた、『春代』はメモを取っていた。

「なるほどかぁ。今日、久し振りにあれしない?」
「あれって何よ」

春代は首を傾げてこう聞いた。

「トランプで寝る場所決めるの。それなら姉さんも大丈夫だろ?」

純平がそう言うと俊也がこう言った。

「部屋は2部屋あるしな。野郎同士も面白くないしな」
「でもさぁ、トランプで負けた2人が野郎同士やったら仕方ないんとちゃう?」
「確かにな」

すると純平は『紅龍』キャラが描かれたトランプを見せた。

「わぁ、私のもある」
「なんてったって『春代』お手製のトランプだぜ」
「さて、夕食が終わったらしましょうか」

すると俊也が、夕食を持ってきた。

「えっと『春代』は知ってると思うけど、今日は激辛グラタンな」
「激辛ですってぇ〜!?」

春代がそう言うと、俊也がこう言った。

「まずこのロシアンルーレットをしてもらう。ルールは簡単。激辛グラタンを食べたら負けだ。まぁそれを悟られなかったら1人勝ちになる。だが今回は、壮絶ハバネロ入りだからな。な純平」
「あぁ。いくら辛いもの好きな姉さんも耐えられないね」

すると『春代』がこう言った。

「食べていい?」
「いいけど」
「いただきます」

『春代』は、グラタンを食べた。しかし平然としていた。

「『春代』はセーフだな」

次は春代が食べた。

しかし、春代も平然として平らげた。

そして俊也と純平は同時にグラタンを食べた。

すると俊也に異変が見られた。

「悪い。俺だ」
「じゃあ、俊也はあれだな。選択肢なしな」
「分かった」

春代は、俊也のグラタンを食べた。

「違うわ。俊也のグラタン辛くない」
「えぇ〜!!じゃあなんで…」

純平はこう言った。

「本当は俺なんだけど…」
「じゃあどうして俊也が…」

すると、俊也がこう言った。

「演技。演技だよ」
「ずるいよ!!」
「悪い悪い。俺は選択肢なしでいいから、純平は一人勝ちにしてくれよ」
「分かった」

2人の春代は、グラタンを食べ終わってからトランプをし始めた。

「えっと何にするん?」

『春代』は春代にそう言った。すると春代はこう答えた。

「ここはスピードで」
「分かった。じゃあ何回勝負にするん?」
「1回でいいわ」
「じゃあカードをきるわな」

『春代』は、トランプをきった。

俊也はこう言った。

「『春代』が最も得意とするカードゲームだな。敢えて春代がそれを言うとは…」
「いや姉さんも相当早いよ」
「ということは、運が勝負を決めることだな」
「まあ心理戦もあるよ」
「そうだな。にしてもあのグラタンさぁ、熱くてむせたんだよ」
「だからかぁ」
「でもよく平気だったな。あのハバネロ入りグラタン」
「まあね。酒は一滴も飲めないけど辛いものなら平気だよ」

そして2人の春代の勝負の火蓋は落とされた。

『いっせーので』

その合図と同時に2人は、カードを出し始めた。

「始まったみたいだな。どっちも互角だな」
「さて、俺はどっちと寝ようかな」
「俺は姉さんと寝ても構わないけど」
「でも、『春代』が嫌がるんじゃないか?」
「嫌がるのはお前の方だろ?自分の妻と寝れないのは」
「いや、実は昨日襲いかかったんだよ。俺」
「うわっ。お盛んだね」

純平はそう言うと、俊也はこう言った。

「お前は淡泊すぎだよ。33にもなって…」
「あいつはそう言うの嫌いみたいだし、俺もあんまり興味ない」
「それはそれで悲惨だな」
「いいんだ。お互い好きなことしてるんだし」
「それに引き換えに俺達はいろんな代償があるしな」
「だから、どっちがいいかなんて一概に言えないよ」
「そうだな。あっ、終わってみたいだな」


結果は『春代』の勝ちだった。

「さて、純平ここの部屋とあっちの部屋どっちがいい?」
「ここかな」
「分かった。私は向こうね」

すると俊也がこう言った。

「いいのか?」
「うん」
「姉さんはどうする?」
「私純平と寝るね。まだ一度もいっしょに寝たことないから」
「じゃあ、俺はルームシェア以来だな」
「そうね」

『春代』と俊也は隣りの部屋に向かった。

純平は布団を用意した。

「姉さん…」
「なあに」
「どうして俺を?」
「聞きたいことがあったからよ」
「なに?」
「俊也…昨日ね、俺は闇でお前は光だと言ってたの。もしかしたらあなたにも言ってたかもしれないって思ったから…」
「あぁ、俊也はそんなこと言ってたのか」
「聞いたことないみたいだね」
「あぁ、昔のあいつは今ほど饒舌じゃないし。むしろ寡黙で暗い奴だった」
「なるほどね」

一方、俊也は『春代』にこう言った。

「なんで純平のところに行かなかった?」
「あんたに言っておきたいことがあるからよ」
「なに?」

『春代』はこう言った。

「春代さん大事にしてやってな。あの人俊也のことになると動揺してたし、それに深い傷を追ってる」
「あぁ、あいつは俺が傷付けた」
「………」
「軽蔑するならしてもいいぞ」
「別にせえへんて。俊也の心の傷も深いことは知ってるし、それを承知で春代さんはあんたを愛してるんやと思う」
「お前…」
「親友やからな。それに、春代さんって私と同じ名前やのに偉い好みのタイプ違うよな」
「確かにな。お前は太陽みたいな存在がタイプだし。あいつはどこか影のある存在がタイプだしな」
「やからかぁ。私は全然気付かんかってんけどさ。俊也って哀愁が漂ってるみたいやねんて」
「なるほどな。まあお前は俺と似た存在だ。だから余計に気が付かなかったんだ」
「確かにな。見た目では同じように見えても、中身は偉い違いやな」
「それは俺達のことを言ってるのか?」
「そやで。俊也が影なら純平は光や。くわえて言うなら私も影で春代さんは光」
「昨日同じようなことを春代に言った」
「そうか。感性も似てるんやな私ら」
「ダークナイトのジョブを反対しなかったのもお前ら2人だけだったな」
「そうやね。純平も反対しなかったしな。まぁ、私らは個人主義やし昔から割り切ってたからな」

『春代』はそう言うと、布団を敷いて眠ってしまった。

「相変わらず寝るのが早い奴だ」

一方、春代は純平にこう言った。

「そう言えば、純平は俊也と双子じゃないと知った時どうだった?」
「むしろ安心した。だって俺達の目が明らかに違っていたしな」
「そうなんだ。後…俊也って昔眼鏡掛けてたらしいけど」
「あれは赤い目を隠すためのカモフラージュ」
「確かにあの目は不思議な色をしていたわ」
「姉さん…」

純平は春代にそう言った。

「姉さんと寝るの初めて」
「私も。ずっと1人っ子かと思ったもん」
「淋しい思いさせてごめんね」
「ううん。それより『春代』さんに淋しい思いさせたんじゃない?」

すると、純平は苦笑してこう言った。

「確かにな…」
「私のせいね。私がしっかりしてたら淋しい思いはさせてないのにね」

すると、俊也が入ってこう言った。

「純平、部屋代われ」
「だめだよ。決まりだよ」
「『春代』がお前の名前を寝言で言うから」
「ほら、行ってあげなよ」
「分かった」

純平は『春代』の元に言った。

「あれ本当?」
「当たり前だ。まぁあいつも淋しいんだ」
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