ー宿命ー

□2人の旅
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純平は複雑な気持ちだった。

突然漣にそう言われると思わなかったからだ。

純平は自分の正直な気持ちを漣にこう伝えた。

「漣…。俺は確かに『春代』を淋しい思いをさせてしまったのかもしれない。でも、漣が大切なんだ。もちろん『春代』も大切だよ。だけど…」


すると淳希がやってきてこう言った。

「そいつの涙を拭いてやれるのはお前しかいないだろ?漣がせっかく帰ってもいいって言ってくれてるんだし、そいつの元に戻ってやれよ。漣は俺が見るから」
「淳希…」
「それにな、純平。お前はいつも自分のしたいことを後回しにしている。だから、本当にやりたいことをしろ。そして、自分に素直になれ、いいな」

純平は初めてこの時、涙を流した。

淳希は純平を抱き締めた。

「お前は、ずっと俊也のことも春代のこともすべて自分の責任と思っていた。だがそれは違う。あいつらはあいつらで責任を感じていた。だからお前は何も悪くない。自分を責める必要もない」
「淳希…」
「それとな、俺はまだ独身だし、女もいない。見合いも断ったから漣に専念できる身分なんだ。だから任せてくれないか?」
「分かった。俺、あいつに会ってくる」
「春代も俊也もいないし、ゆっくり休めよ。気が向いたらこっちに帰ってきてくれ」
「淳希…」
「純平はよく頑張ったさ。それは俺が一番よく見てる。漣の戴冠式もすべて段取りしてたしな。それに幼い漣を育てたのはお前だ。だからこそ漣はいたわる気持ちを忘れずにこうやって、お前に言ってくれたんだ」
淳希はそう言うと、純平を離した。


すると漣はこう言った。

「長い間ありがとう。そしてお疲れ様。純平伯父様、これは細やかなお礼の印です」

漣は、フルートを純平に渡した。

「お母様から、純平伯父様はフルートを吹くのが上手だと聞きました。もしかしたら気に入ってもらえるかと思いました。どうですか?」
「嬉しい。ありがとう、大事にするよ」
「良かった。そう言えば、お母様とお父様ももしかしたらジパングに帰られるかもしれませんので、良かったら俺の近況を伝えてくれませんか?」
「うん。それが実質最後の仕事だな?」
「はい。だから、純平伯父様は故郷に帰ってください。俺は淳希さんと、両親をこの国を守っていきますから。あなたは彼女の幸せを守ってあげてください」
「分かった。じゃあ俺も旅に出るよ。漣、何かあったらすぐに俺を呼べ。淳希、今までありがとう」
「純平、幸せにな!」
「淳希、お前も結婚しろよ」
「分かってるよ」
「じゃあな」

純平はそう言うと、テレポートしてジパングに帰った。

淳希は漣にこう言った。

「でもなんで、純平を帰したんだ?」
「彼ね、ずっとあの人の写真を見てため息ついてたんですよ。『ごめんな』とも言ってたし」
「へぇ。そうなんだ。淳希さんは未だにお母様が好きなんですか?」
「あぁ、好きだぞ。だから、医務大臣になるまで猛勉強したし、目まで悪くなった」
「お母様も罪な人ですね」
「まあな。本人は全くそれに気付いてないしな」
「無自覚ほど怖いものはありませんからね」
「確かにな。って漣はそう言うことあったのか?」
「いえ」
「ならなんでそういうこと言うんだよ」
「お母様は最後まで淳希さんの想いに気付かなかったから」
「そうだよな。まぁそれで良かったんじゃない?」
「納得してるんですか?それとも割り切ってる?」
「どっちでもない。あいつらは、悲しい運命で結ばれたんだ」
「それはどういうことなんですか?」

すると、淳希は眼鏡を掛けてシリアスな顔をした。

漣は何かを感じたのか、淳希にこう言った。

「お父様自体が生まれてきたのがそもそもの間違い?」
「そう、ハリルは本当はデーモンと結ばれるべきだった」
「なんですって」
「平和と博愛をモットーとする戸川雪之丞つまりハルT世は唯一、デーモンを見捨てなかった。だが、ジュニーU世がそれを乱した」
「俺の先祖であるジュニーU世が…」
「いや、ジュニーT世だ。ジュニーU世はローレ・ハンスの子だ。ジュニーT世はローレとデーモンを同時に封印してしまった」
「まさか、それで地上世界に闇の世界が生じてしまったの?」
「ご名答。だから俊也は自らの手で、封印をしたんだ」
「だからその間平和だったんだ。俺は…」
「気にするな」
「でも…」

漣はうつむいた。

淳希は残酷な言葉を言った。

「ハルクが最後に残していった言葉を教えようか」
「え?」
「800年後この世界は確実に滅びる」

漣は目を見開いた。

「それは、本当なの?」
「あぁ、ハルクはれっきとしたデーモン一族だ。そしてデーモン一族の生き残りの1人」
「そして俺にもデーモン一族の…」
「まあな。だが、ハルクは敢えて禁忌を犯した。新たに誕生するミスティレディの攻撃を阻止するためにな」

それは、ハルクが棗に再会することを暗示していた。

漣は唇を噛み締めた。

「俺に何ができる?」
「お前は、ハルクより200年後にいなきゃだめだ」
「その時が、悪魔の告示?」
「あぁ、間違なく黒龍がよみがえる」
「それを阻止するのが、俺の役目」
「人間としてでなく、龍としてな」
「気付いてたの?」
「あぁ、美希から聞いた」
「だけど…美希には子どもがいる…」
「礼…」
「あの子は、俺のたった一人の子供…」
「礼も行かなきゃならない。お前と共に…」
「美希はどうなるの?どうして、こんなことを知ってるの?」

すると、淳希は俊也のことを話し始めた。

「すべて俊也が話してくれた。だから、これは紛れもなく事実。純平は、何も話さなかった。多分彼も知ってる」
「でも、なんで教えてくれなかったんだろ」
「それは、お前がまだ子供だったからな」
「………」
「だけど、漣もうすうす気付いてたんだろ?」
「はい。でも…」
「春代と俊也には言えなかった。だろ?」
「えぇ。特にお母様が知ったら、どんな顔するか…」

漣はそう言うと、淳希は何も言えなくなった。

漣は続けてこう言った。

「淳希さんはどうするんですか?」
「俺は……」
「ここにいるんですか?それとも…」
「俺はまだ、お前がここにいる期間はこの時代にいる。その後のことは知らない」
「随分と刹那的な考えなんですね」
「春代の感情が移ったんだよ」
「………」
「まぁ、お前も大概刹那的だし、現実的だしな」
「確かに」
「幻想的なのは…俺だけなのかな」
「いや、淳希さんも大概ですよ」
「まあな。じゃあ、その時が来るまで、よろしくな」
「こちらこそ…」

2人は握手した。



一方、春代と俊也は山頂に着いたころだ。


淳希達がした話を俊也はおもむろに話した。

俊也は顔を歪めた。

「俺、やっぱり…生まれてくるべきじゃなかった」

すると春代は意外なことを言った。

「そうとは思わないわよ。だってあなたが生まれなきゃ、私は何も知らなかったから。それにあなたが生まれなきゃ、漣も棗も生まれなかった。それに私達は…」
「出会うべくして出会った禁忌の証」
「それ誰に聞いたの?」


すると俊也は敵の気配に気付いた。

「話は後だ」

春代は、敵に襲われた。

「残念だったな。若僧」
「お前…」

モンスター達は春代を取り囲んだ。

「この娘の命が惜しくば、その剣を下ろせ」
「悪いが、そいつは俺の娘じゃない」
「じゃあなんだ?」


モンスターは、そう言うと、俊也は開眼した。

「俺の妻だ!!」
「ふうん。随分若い女を引っ掛けたな」

すると違う気配がした。

「俊也!!」

「あなたは!!」

人影は、モンスター達を一掃した。

「たくっ、人の妻守れんでどないするんや」

その人は明らかに大阪弁を話した。

「は…『春代』?」
「久し振りやな。俊也と…もう1人の春代さん」
「えぇ。あなたは田所春代ちゃんね」
「純平から聞いたわ。もうすぐしたら、あいつも来るわ」

すると、俊也のいた崖が崩れた。

2人の春代はすぐに彼の手を掴んだ。

しかし俊也の装備している鎧がかなり重いので、2人ががりでも、なかなか上がらないのだ。

すると、もう1人が、俊也を抱えた。

「待たせたな。俊也」
「じ…純平…」

すると春代はこう言った。

「こうやって見ると、同じ顔の2人が2組いるみたいね」

すると純平はこう言った。

「ただ違うのは、俺の春代は目が赤いんだよ」

すると純平は『春代』の目を見せた。

「確かに。そう言えば由希さんの妹だよね。『春代』ちゃんは」
「えぇ。由希兄貴の妹ですよ」
「だから大阪弁なんだよね」
「あぁ…あかんかった?」
「ううん。初めて由希さんと会った時、本当は好きだった」
「え〜!!!!」

春代意外の3人は驚いた。

純平はこう言った。

「淳希じゃなくて由希さん??」
「うん…由希さんがすべてのきっかけだったの。純平に会えたのも俊也に会えたのも…」
「そっかぁ。よくそれ言わなかったな」

俊也は少しふてくされた。

「なんだよ。初恋は俺じゃないのか」
「ごめんなさい。でもあなたにだって初恋は…」
「あぁ俊也の初恋は……」

俊也は、こう言った。

「春代」
「どっちの?」
「えっと…」

春代は歩き出した。

3人は春代に付いて行った。

「なんだよ聞きたくないのかよ」
「だって…私の顔見なかったもん」

すると『春代』はこう言った。

「安心し…。俊也はあんたしかみてへん」
「でも、『春代』ちゃんは俊也の断罪の旅の時会ったんでしょ?」
「確かに…。でも違う。俊也はあんたの話ばかりしてた!!」

すると春代は『春代』を見てこう言った。

「それは、私を傷付けないために言ってるの?」
「………」

『春代』は春代にこう言った。

「俊也はただの親友や。一度も恋愛感情をお互い抱いたことはあれへん。それに私は純平を愛してるんや!!」
「なるほど。じゃあ俊也の話を聞こうか。『春代』ちゃんのことは信じるから」

すると、俊也は春代の唇を奪った。

「これが何よりもの証拠だ。最近本当に疑い深くなったな。なにがお前をそうさせた?」
「それは……」

俊也と春代は何も言わなくなった。


その後ろで純平と『春代』は、こう話した。

「姉さん最近ナーバスなんだよ」
「みたいやな…」
「うすうす勘づいてたかもな」
「まさか…」
「そのまさかだ」

4人はふもとの城下町に着いた。

春代は純平にこう言った。

「そう言えば、純平はなんで来たの」
「漣にクビにされた」
「え〜??」
「冗談だよ。漣はもう大人だし、淳希が任せろって…」
「そっかぁ」
「ところでなんで初恋が俊也じゃないわけ?」
「だって、俊也は……」
「恋愛に疎いしな。それに本当なら…」

『春代』が2人の言葉を遮るようにこう言った。

「春代さん、後で話があるから」
「分かった」

2人の春代は、先に行ってしまった。

俊也と純平は泊まる宿を探した。

3軒目でやっと見つけたみたいだ。

2人は、すぐに風呂に入った。

「姉さんのことだけど…」
「あの話を今日した」
「だからか…」
「でもいずれは言わなければいけないと思った。この話はあいつも知ってるのか」
「あぁ、ひょっとしたら俺達全員が知る前に知らされてたかもしれない。それとあいつは、生まれてくる性別を間違えたと言ってた」
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