ー宿命ー

□2人の旅
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「確かにね。私とは違う気がするわ」
「そりゃ、『春代』は母親を幼くして亡くしてるしな」
「それは気の毒…」
「でも、俺はいろいろと『春代』に救われたんだ」

すると、俊也は横たわった。

「同じ淋しい気持ちを分かち合えたから?」
「それもある」
「他は?」

春代がそう言うと、俊也は彼女を抱き寄せてこう言った。

「他人と比較せずに接してくれた。ばあちゃんと同じ人種だと思えた」
「でもなんで俊也に惚れなかったんだろうね」
「確かに。ルームシェアしてる時も、純平が好きだったみたいだし」
「多分、俊也にはなくて純平にはある魅力に惹かれたからじゃない?」
「俺って魅力ない?」

すると春代はこう言った。

「『春代』さんには感じなかったんだよ」
「なるほどな。まぁ俺もあいつを一度も女としては扱ってなかったし、向こうもそんなふうだったしな」
「じゃあなんでルームシェアをしたの?」
「由希さんから頼まれたから」
「だからか。まぁ『春代』さんは私と違って割り切るのが早い性格だし…」
「純平もな。あの2人はああ見えて大人だ」
「それに比べて私達は…」
「過去に縛られてる」
「だよね。もうあれから15年が経ったのに」
「それだけ鮮明だったんだよ」
「うん」

春代はそう言うとウトウトしまった。

俊也は、春代の頭を撫でた。

「くすぐったいっ」
「ごめん」
「でも、心地よい」
「なら良かった」
「私ね、本当に俊也が旦那で良かったて思うよ」
「なんで」
「一途だから」
「それだけ?」
「ううん。私達2人とも不器用だし…恋愛なんか疎かったし…」
「そうだな。それにお前と俺は真逆だしな」
「境遇も性格も…」
「光と闇に例えるなら、お前が光で俺が闇。決して交わることのなかった2つの属性の人間がこうやって出会ってしまった」
「それは…」
「溶け合うこともできず、未だに彷徨ってる」
「そうなの?」
「だからさ…本当はお前の手で…殺して欲しかった」

春代は急に淋しくなった。

「漣がすべてつなぎ止めてくれたんだよね?」
「そうなる。でも…でも…」
「いずれは漣もいなくなる…」
「あぁ。だから俺達はまた離れてしまうかもしれない」
「もう離れたくないっ。もう離したくない…」
「あの時の過ちはもう犯さない。だけど、いずれはどちらかが死んでしまう」
「一緒に死ねたらいいのに…」
「そうであっても、俺達は離れる。だって俺は悪魔に心を売ったから…」
「………」

春代は一筋の涙を流した。

俊也は春代の頬に口付けした。

そして、春代は目を閉じた。

まどろむ2人の姿を、月明りだけが照らしていた。

決して交わることのない2人の姿。

それはかつてのジュニーU世とハリルのようだった。
俊也は春代が寝るまで、頭を撫でてやった。

春代はゆっくりと眠ってしまった。

そして夜が明けた。


2人はまだ眠っていた。

しかしその眠りを妨げる者がいた。

モンスター達は眠る俊也に襲いかかった。

春代はとっさに起きて、俊也の剣を構えた。

「人が気持ち良く寝てんのに、何事よ!!」

春代は寝起きのせいもあってすこぶる機嫌が悪い。

「それに旦那を襲うなんてどうかしてるわ。普通なら私を襲えばいいのに」

すると俊也が起き出した。

「春代…どうかしたのか」
「モンスター達が…」

春代がそう言い切る前にモンスター達は俊也に攻撃した。

俊也は条件反射でモンスター達を一掃した。

そして眠りについた。

春代は、モンスター達の骸を処理してから、朝ご飯の用意をした。

今日はサンドイッチを作るみたいだ。

春代はサンドイッチを作り終えると、俊也を起こそうとした。

しかし昨晩俊也は春代が眠るまで起きていたので、疲れていた。

春代は起こすのは悪いなぁと思い、俊也を起こさなかった。

春代はカーテンを開けた。

空は青々としていて、雲一つ無く太陽の光が眩しい。

春代は昨日俊也が言った、光と闇について考えてみた。

(太陽が出る朝が光なら、月の出る夜が闇になるのかな。俊也はお前は光だって言ってたけど、私にも心の闇を持っているわ。じゃあなんで私が光なんだろう。本当なら俊也のばあちゃんが光じゃないかしら)

春代はそう考えると難しい顔になった。

(今日、クリスタルマウンテンの山頂まで行くでしょ?そして、ブレムスまで直接行くのかな…)

すると、俊也がやっと起きた。

「まだ寝てたらいいのに」

春代がそう言うと、俊也はこう言った。

「そうしたいのはやまやまだが。モンスター達もクリスタルマウンテンにいるからそうゆっくりは眠れないんだ」
「そっかぁ。サンドイッチ作ったから食べてよ」
「ん。分かった」

俊也は起きて、布団をしまった。

そして着替えるためにいったん外に出た。

春代もその間に新しい服に着替えた。

俊也が戻ってきた時、彼女はサンドイッチをテーブルに置いて用意した。

「いただきます」

2人はそう言うと、サンドイッチを食べた。

「そう言えば、前の断罪の旅の時は、ジパングに戻らなかったの?」
「戻って、お前の両親に謝罪した」
「なんで」
「お前に辛い思いさせたし…漣のことも」
「…それでどうだった?」
「春代の幸せはあなた次第よってメウルさんに言われた。スタイナーさんは黙って聞いてくれたしね」
「良かった…」
「それと『春代』にも会った」
「どうだった?」
「長い間、見て無かったけど、あいつは相変わらずあいつだったかな」
「ふうん。純平のことをなんか言ってた?」
「単身赴任してる身だから、心配だよって話してくれた」
「そうね。今、純平に漣の城務指導させてるから頻繁には帰してあげられないのが、申し訳ないわね」
「そうだな。漣は王様になったとは言え、まだ16歳だ。これからいろいろ学ばなければならないこともある」
「そう言えば、俊也って何才の時、ダークナイトとなったの?」
「10歳。あれは突然だった」
「随分早いのね」
「あぁ。あの時俺は家族の中で孤立していた。両親は養子の純平を可愛がって、俺を忌み嫌ってたからな。妹なんかもっと可哀相に、抱き締めてもらった記憶がないとか言ってたけど」
「酷い…」
「あぁ酷かったさ。だから、俺と妹は闇種族に変わった。俺はダークナイトとして、妹はダークプリンセスとしてな」
「純平はそのことを知らなかったの?」
「知っていたけど、止めはしなかったんだ。多分純平は純平で兄弟間で孤立してると感じてたしな」
「悲惨ね…」
「今思うと、どっちもいい思い出が少ないな。まぁ純平はそのころから大人びていたから割り切ることにしたみたいだ」
「純平がダークナイトになってたら?」
「あいつは剣士系に向かないって言ってたし、ダークナイトになるくらいなら、吟遊詩人のような自由気ままで縛られないジョブになりたいって言ってた。ダークナイトはダークナイトで規律とかが厳しいしな」
「確かに…難しい契約もしたんでしょ?」
「あぁ。剣豪科の先生にこう言われた。人を殺めてはならない。そのころは殺してしまいたかった人間が山程いたからな」
「私もその1人?」
「最初はな。でも俺は殺さなくて本当に良かったと思うよ」
「………」
「だってお前がいたから『愛する』ことを知れたからな」
「じゃあ『春代』さんには何を教えてもらったの?」

すると俊也は、昔のことを思い出してこう言った。

「自分と他人を比べないこと。昨日の自分と今日の自分を比較して、進めたらそれだけで充分だよ。だから、自分を卑下する必要はないって言ってたな」
「なるほど。純平が言ってたのと似てるわ。もしかしたら、純平が言ってたりして」
「かもな。あいつは、純平のマイペースさと何気ない優しさに惹かれたって言ってた。俺には無い要素だよな」
「そうかな。マイペースではないけど、不器用な優しさがあるよ。私には分かる」
「まぁ不器用すぎて、あいつには分からなかったんだろうな」
「でも良かったじゃない。ちゃんと割り切って見てくれる人がいたから」
「確かにな。あいつはダークナイトとか家柄とか関係なしに、接してくれた。本当は、あいつも王族だけどね」
「確かにね」

2人は雑談をしながらサンドイッチを食べ終えた。

そして後片付けをしてから、小屋を出た。

「俊也って昔、1人ぼっちだって言ってたけど、結構恵まれてるじゃん」
「今思うとそうだな。あの頃は思い込みも激しい人間だったしな」
「私の場合はずっと聞き手だったな」
「実際たくさんのことを聞いてもらったしな」
「うん。私もたくさんのことを聞けて嬉しい」

すると、俊也が立ち止まった。

「どうかしたの?」

春代がそう言うと、俊也はこう言った。

「そう言えば淳希とは幼馴染みだったらしいけど、どうして知り合ったの?」
「おばあちゃん同士が仲良かったのよ。それで淳希と知り合ったのが3歳のころ」
「随分古い仲なんだな」
「そうね。未だに友人関係は続いてるしね」
「淳希は未だにお前が好きだぞ」
「えぇ。でも淳希にも見合いで決まった子がいるのよ」
「意外だな。ずっと独身を貫くかと思った」
「私が薦めたの。でなきゃ老後が淋しいでしょ?」
「確かにな。そう言えば、美影と由希さんは…」
「美影は未だにモンスター討伐の隊長してるし、由希さんは由希さんで、美希ちゃんの城務指導してるしね。忙しいみたい」
「そっかぁ。あれから16年が経ったな」
「えぇ。でも、私達が出会ったのは小学2年生のころよ。淳希に教えてもらったわ」
「じゃあ…初めて出会ってから28年も経ったのか」
「俊也は変わっていくのに…」
「お前は不変だな。でもそれが反って心地よい」

2人はゆっくりと山頂を目指した。



一方そのころ、純平は漣を呼び出してバルコニーまで連れて行った。

「あのさ、このパンジー最初に植えたのは誰だと思う?」

純平がそう言えば、漣はこう言った。

「ジュニーV世でしょ?お母様から聞きましたよ」
「なんで、漣が世話してたの?」
「それは…」
「美希ちゃんに見せるためか?」
「いえ。俺はこの花を見て、ジュニーV世の思いをかみ締めてるんです。最初は空しい想いだと軽蔑していましたが、お母様を見て、想い続けるのも悪くないし、むしろそれが一番幸せなんだとも思えました」
「お前にもやっとそれが分かったんだな」
「はい。あの頃はまだ未熟すぎて、なにも分からない子どもでしたから」
「そうだな。でも漣が大人になって俺も嬉しいよ」

純平は漣に笑顔を向けた。
すると漣ははにかんで笑った。

「純平伯父様には、たくさんのことを教えてもらいました。今だって教えてもらってますし」
「いや、俺も漣を見てたくさんのことを学んだ。生憎俺には子どもはないけど、漣は俺の子供みたいなものだしな」
「俺も、本当のお父様の存在に気付くまで、純平伯父様が父親だと思ってたふしがありますし」
「そう言ってくれて嬉しいよ。お前の成長は誰よりも俺が知ってるしな」
「えぇ。一番長く接してくれたのはあなたですから。だから、もう…」
「もう…?」


漣はこう言った。

「お嫁さんの元に戻ってあげたらどうですか?」
「いきなり何言い出すんだよ」
「だって、俺のせいであの人に淋しい思いをさせてるんだもの」
「……漣」
「はい」
「それは事実上クビと言うわけか?」
「…いえ、執事長の役職はクビにはしません。ただもう少し頻繁に帰ってもよいかと」
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