ー宿命ー

□2人の旅
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「ダミアス家ならシダル・マッカル・ダミアス。ジュニー王族ならシュタイン・スタンス」
「ややこしいわね」
「まあな。じいちゃんは俺のこと『シダル』って言うぞ。あとシュタインは、俺のばあちゃんが付けてくれた名前だ」
「なるほど。おばあちゃんの名前は?」
「真理亜。和名でも英名でもマリア」
「へぇ。私は…」
「春代・ハンスだろ?淳希から聞いた」
「そう言えば、淳希のおじさんってリリアンじいちゃんのこと知ってるみたいよ」
「哲瑠か…」
「そうそう。確かジョブがドクターとスナイパーの人ね。一度だけお会いしたことがあるわ」
「どんな人だった?」
「淳希が大人っぽくなって落ち着きのある感じのバージョンに近いかな。顔自体がいかにも淳希のおじさんって感じ」
「つまり瓜二つなんだな?」
「そうそう。確か透君のおじいさんだったわね」
「へぇ…」

すると春代はこう言った。

「でも、透くん……」
「自らの手で封印したんだろ?恋人と一緒に」
「えぇ。漣が教えてくれたわ。だからもしかしたら俊也もネオフェニックスシンドロームの進行を止めるために…」

すると俊也は春代の言葉を遮るようにこう言った。

「違う。俺は自分で封印はしたものの、病気の進行を止めるためにしたんじゃない。力の暴走を止めるために封印したんだ…」
「でも…」
「結果的には春代や漣に辛い思いをさせてしまった」
「………」
「あの2人は身内がほとんどいなかったから、封印できたんだ」
「そうね。操ちゃんにはおばあちゃん、透君には伯父の淳希と哲瑠さんしかいないからね」
「淳希は封印のこと知ってたのか?」
「うん。でも淳希はこう言ってた。愛し合う2人だからこそ封印できたんだって」
「なるほどなぁ。まあ、俺もお前と最初に会ったとき封印しようと思ったよ」
「それは、私が憎かったから?」
「……あぁ。あの頃はハリルの事情も知らなかったからな。春代は何も悪くなかったんだよ」
「大変だったわよ。封印はされるわ…攻撃されるわ。本当に容赦ない人だなって思った」
「だって、お前は逃げなかったじゃないか」
「逃げるつもりなんかなかったわ。でも本当はすごく怖くて…」
「逃げたかった?」
「ううん。死ぬかと思った」

春代はそう言うと、俊也は申し訳なさそうにこう言った。

「すまない」
「いいの。私も何も知らずに生きてきたから」
「………」
「それに、俊也はただ淋しくてしたんだって思ったんだ」
「え?」
「私には、そう思えた。俊也は誰にも構ってもらえない過去があったから、淋しさも募らせて生きてきたんだと思う」
「………」
「違うかな…違ったらごめんなさい」

すると、俊也は春代を抱き締めた。

「当たり。俺はずっとあの時から一人ぼっちだった。ばあちゃんだけが俺を分かってくれた。なのに…なのに…」
「亡くなってしまったんだよね?」
「1人にされる辛さがあったから、俺は心を閉ざした。本当は俺は…」
「ばあちゃんだけが頼りで生きてきた?」
「あぁ。ばあちゃんは、幽閉されてたけど、じいちゃんを愛してたんだ。それが羨ましいって言ったら…」
「言ったら?」
「俊也も愛してるよって恥かしげもなく言ってくれた。すごく嬉しかった。両親は言ってくれなかったから」
「……そうだよね」
「でも、俊二じいちゃんが本当に愛していたのは男だった」
「なんですって!?」

春代はびっくりして俊也を離した。

「ばあちゃんがそう言ったの。ばあちゃんはじいちゃんが好きだったから、何も言わなかったしその男は若くして亡くなった人だからな」
「それってまさか私のおじいちゃん?」
「そういうことだ。まあ、じいちゃんは変わった趣向をしてる。可愛い子には目がないって言ってた。ばあちゃんもかなり美人だったが、リリアンはそれを凌ぐ美貌の持ち主だったって」

春代は絶句した。

「驚いたか?でもリリアンは、ちゃんと樹里が好きだとじいちゃんに話してたらしいよ」
「ならいいけどさぁ、俊也のじいちゃんってゲイ?」
「いや、野郎を追いかける趣味はしてない。ただリリアンが余りにも綺麗だったからな」
「女顔してるとは聞いたわ。おじいちゃんの写真見た時ね女性みたいだったわ」
「まあ春代はどっちかと言うとスタイナーおじさん似だな」
「えぇ。お父さんも童顔だしね。俊也はひいじいちゃん似ね」
「よく言われる。純平はメウルさん似だ」
「いとこなのに最初出会った時は本当に双子かと思ったもん」
「そりゃじじいの血が繋がってるしさ」
「相変わらずひいじいちゃんのことは『じじい』なのね」
「あぁ。ジュニーU世なんか一生かかっても呼ばねぇよ。だって奴は龍人族のローレの息子だからな」
「それ聞いたことあるわ。じゃあハリルさんと同じ種族?」
「さあな。じじいは春樹が死んで、ハリルとの約束を果たすために天空へ行ってしまった」
「最終的には結ばれたんじゃない?」
「そうなるけどな」
「それと漣も…」
「ハリルの隔世遺伝があるからいずれは天空に飛び立つんだろうな」
「俊也は?」
「俺はデーモン一族の血が色濃く入ったんだよ」
「だから『闇』が印だったのね」

すると、俊也は布団を敷いた。

「だから、デーモン一族としてのジュニー王族への憎しみもあった。俺の妹のミスティがその象徴」
「なるほどね…。じゃあハルクを1000年後に行かせてはいけなかったのかな」
「いや、ハルクは闇種族ではあっても、漣と棗に忠実 だった。ハルクの父親が亡くなってからずっとな」
「………」

春代は座り込んだ。

「どうかしたのか?」
「ううん。なんでもない」
「春代、最近また無理してなかったか?」
「してない」
「純平が、心配してた」
「俊也はしてくれなかった?」
「したさ…。で何か隠し事をしてるみたいだって…」

すると、春代はこう言った。

「以前に私以外の人と付き合ったことがあるって聞いたの。それって誰?」
「純平は勘違いをしてる。あれはあいつは親友だ」
「女の親友?」
「そうだ。今は純平の女房だけどな」
「それって戸川の方の『春代』さん?」
「そうそう。今は田所春代だけどな」
「でさ、なんで勘違いさせるようなことがあったの?」

すると、俊也はゆっくりこう言った。

「俺はばあちゃんを失ってから、ずっと由希さんの妹の方の『春代』とルームシェアしてたんだよ」
「どこで?」
「今の俺の家に」
「それで純平に見つかって同棲生活してるって思われたわけね」
「その通り。あいつもお前と同様俺達の区別がついた人間だ」
「まぁ改めて見ると、俊也のほうが若干、スッキリした顔ね。純平はソース顔だし」
「まあな。あいつもそう言ってた」
「今さぁ、『春代』さんはどこにいる?」
「お前の実家で、メウルさん達と住んでいる。純平が単身赴任してるからな」
「へぇ」
「月1程度に純平は帰ってくるんだけどな」
「子どもとかいないよね?」
「いないな。2人とも働いてるし」
「そっかぁ」
「良かったらジパングにも帰るか?」
「いいの?」
「あぁ、お前の家にも寄りたい。それに、じいちゃんもいるしな」
「楽しみね」
「断罪の旅なのに新婚旅行みたいだな」
「確かに…」

2人は初めてこの日笑った。

「やっと漣も貫禄が付いた頃だし、ちょうどいいと思ったしな」
「そうね。私達が出る幕じゃないわね。でもよく俊也が君主のときこの国を滅ぼそうとしなかったね?」
「ばあちゃんが愛した国だからだよ。それにお前が来るのを待っていた」
「それって本当?」
「あぁ、本当さ。小学校の頃、お前の名前聞きそびれたからな」
「そういえば、私達前にも会ってたわよね。その時俊也の容姿は…グルグル眼鏡で、髪がボサボサで…」
「オタクみたいな格好をしてた。元々俺の性格はクールでもないし…」
「非情でもなく、大人しい子だったな。本当目立たない子で。純平の方が目立ってた」

すると、俊也はその時の写真を見せた。

「これ、マリアさんとの写真だよね?」
「よく分かったな」
「だってマリアさんハリルさんにそっくりだもの。にしても、あの時からどうやって変わったの?」

すると俊也は窓を開けた。
そしてこう言った。

「素顔の方がいいねってお前が言ったからさ」
「それってあの時?」
「その通り。淳希はお前は美形だからムカつくよって」
「淳希も充分美形なのにね」
「まぁ、淳希の場合は、お前が羨ましいかったって後日話してくれた」
「だから、容姿が180度変わったのね」
「そうだよ。もう一度お前に会うためにな」
「確か、純平と同じ聖クリスタルスクールに進学したんだよね?」
「そうそう、お前達は桜蘭学園の方だったな」
「聖クリスタルスクールに行ったときはまだあの格好だった?」
「まあな。純平と区別してもらうためにな」
「で…何科に入ったの?」
「2人とも総合芸術科。副科目として剣士科。最終的にはあいつは城務科、俺は剣豪科に入った」
「なるほど、あのさ自分達が双子じゃないって気付いたのはいつ?」

春代がそう質問した。

すると俊也がこう言った。

「俺が初めて、樹里に会った時。樹里はメウルさんの事情をすべて知っていたから、難産のことも純平が田所家の容姿に入ったことも聞いた」
「純平には言わなかったの?」
「言えなかった。そのことを言えば純平はお前の両親を憎んでしまうんじゃないかって…」
「純平は仕方なかったって言ってるわ。それに徳川家には20年もいなかったから未だに戸籍は田所だし」
「確かにな。あいつは根っから優しい男だし。まあそれが気に入らなかったけど」
「羨望じゃない?」
「かもな。俺が剣豪科に入って間もなく実技をした時、一回純平に負けたんだ」
「ということは、純平の当時のジョブレベルは」
「俺より上だった。けどあいつはあっさり転職したんだよ。性に合わないって」
「なるほどね。それで悔しくてレベルを上げたのね」
「あぁ。だから、卒業する間際にはレベルが50まで行ってたな。向かうところ敵なしだったからな」
「すごいなぁ」
「まあそれが人を寄せ付けなかった要因にもなるけどな」
「でさ…なんでそこから桜蘭芸術大学に行こうとしたの?」

すると俊也はこう言った。

「純平の誘い。本当は、俺教職免許取るために違う大学行こうとしてたの」
「じゃあ元々は君主になるつもりはなかったのね」
「あぁ、あの本に出会うまではな」

俊也は分厚い本を春代に見せた。

「『紅龍』ね。ちなみにこの著者誰だか分かる?」
「『戸川春代』。つまりあいつが旅に出ていろんな人に話を聞いて書き記したものだ。じつに克明に書かれてる。そう言えばあいつらは、聖クリスタルスクールと、桜蘭学園を行き来してたな」
「そんなことできるの?」
「2つの学校はまぁ姉妹校だし、2人の事情をよく知ってる教師、つまり由希さんがいたから特別許してもらったんだ」
「司書じゃなかったの?」
「元々は魔法科の先生だった。かなり若い先生だったが、実力も人望もあった。魔法の基礎は彼から教わったからな」
「意外だね」
「そうだな。そう言えば、『春代』は、2年間聖クリスタルスクールにいて、3年で桜蘭学園に通学してた。まあ異例なのはそれだけではなくて、あいつは当時カメラマンをしてたしな」
「あぁ純平から聞いたわ。なんでも、モデルを探しに行くため敢えて男子校に潜入したりしてたわ」
「本当行動派だったな。純平はいつもヒヤヒヤしてたらしいぜ」
「まぁ私は俊也にヒヤヒヤさせられてたけど」
「まあな。俺と『春代』は似たもの同士だったしな」
俊也はそう言えば、春代は頷いた。
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