ー龍達の宴ー

□序章―運命のコドウ―
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その年和純は、聖クリスタルスクールに編入した。


しかし、彼は昔のトラウマもあり『佐伯和純』としてではなく『源和純』の偽名を使って学校に入ることになった。


また、見た目も変わった。瑠宇と出会った時は、綺麗な青い瞳が印象的な少年だったが、今は分厚い伊達眼鏡を掛けているせいか、その瞳が見えない。


また切り揃えられていた綺麗な髪も今はボサボサで、前髪が長すぎて彼の顔がはっきりと見えないのだ。


そんな彼を、スクールの生徒達は不気味がって近付くことをしなかった。

そういうこともあって、和純の性格はますます内向的になってしまった。


和純は必然的に1人になっていった。しかし和純にとっては好都合だった。



ある日、和純はある本を読むためにスクール内にある図書館に向かった。

そこでもやはり彼を不気味がっては、逃げていく生徒達がいた。

(あからさますぎなんだけどな…)

和純は苦笑した。

そしてある本を探そうとした。

すると、誰かと勢いよくぶつかってしまった。

「痛いなぁ」

聞き覚えがないイントネーションで言う和純とぶつかってきた生徒の声だった。

「ごめんなさい」
「あんた、別嬪さんやな」
「はい?」

(確か眼鏡をしてるから、顔が分からない筈だけど)

しかし、和純の分厚い眼鏡は、ぶつかった拍子で飛んでしまったようだ。

「眼鏡…眼鏡…」

すると、少年がこう言った。

「眼鏡なら俺、持ってるけど」

少年は、和純に分厚い眼鏡を返した。

「それ伊達眼鏡やろ?なんで掛けてるん」
「………」
「聞いたらあかんかった?」

和純と少年は目が合った。

彼は、前髪をたくさんのピンでとめていて、髪の毛は茶髪だった。瞳は茶色い

また牧師のような格好をしていた。

すると、少年がこう言った。

「俺は、戸川雅也や。あんたは?」
「源和純…」
「違うやろ?」
「は?」
「あんたのことはよう知ってる。親父とあんたんとこの親父さんは知り合いやからな」
「ということは、南の国の王子ですか?あなたは」
「まあそういうことになるな。であんたの本名は?」
「佐伯和純。今年編入してきました」
「ふうん。じゃあ4年生やな」
「え?」
「1年生から普通入るんやけど、編入する生徒は4年生からやねん」
「雅也さんは?」
「俺も4年生。城務科のな。それとオカルト研究部に入ってるわ」
「僕も城務科です…」
「そっかそっか…。いつもみんな避けとるけど…。俺は、興味あったで?」
「どうしてですか」
「だって、俺、可愛い子には目がないんや」
「まさか、僕のこと女の子だと思って…」
「違うんか?和純ちゃんやろ?」
「違います。髪の毛は長いけど僕は女じゃなくて、男です」
「ふうん。でも素顔のほうが俺は好きやな。あんたは絶対綺麗な顔してるて」
「………」
「やっぱり眼鏡してなあかんの?」
「事情があるんです」
「ふうん。そうか。それならこれ以上、言わんけど。良かったらこれからオカルト研究部にいかへんか?」
「でも、また不気味がられる」
「あそこの連中は大丈夫や。少々不気味でも逃げる奴等やないし。むしろあんたにとってもいいと思うけどな」
「分かりました。行ってみたいです」
「それと、同じ学年やから敬語はやめてな?和純ちゃん」
「ちゃんはやめてよ!!」
「いいやん。俺のことは雅也でええから」
「はい」

そう言うと2人は図書室から出て、オカルト研究部がある地下室に行った。

「失礼します」

すると、一斉に生徒達が和純を見た。

「誰ですか?戸川部長」

どうやら雅也はこの部の部長をしているらしい。

そして、ここの生徒は他の生徒より、暗い雰囲気で少し不気味である。雅也を除いてだが。

「見学者の源和純くんや」
「源って城務科に編入したオバケちゃんだよね」
「オバケちゃん?」
「クラスメイトが、怖がるから、私たちの間ではオバケちゃんって呼んでる」
「あんまり嬉しくないです」
「源さんは4年生ですよね?」
「はい…」
「じゃあ先輩になるんですね?」
「そうなのかな…」
「取り敢えず、和純は手前の席に座って?」

雅也がそう言うと、和純は手前の椅子に座った。

「和純くんって何歳?」
「今年16です」
「じゃあ私の1つ下になるんだね」
「あの…名前は?」
「ここでは、ハンドルネーム。一応、部長は申請しなきゃいけないから、本名使ってるけど」
「僕もこの部に入ったらハンドルネームがつくんですね」
「そうそうオバケちゃん」
「その名前は嫌です…」
「可愛いじゃんオバケちゃん」
「まだ入ってないんですよ」
「いや?この部は見学=入部やで」
「聞いてないです」
「ええやん。なんか仲良うなってるし」
「………」
「いやか?」
「戸惑ってるだけです」
「じゃあ、今日の会議参加してくれる?」
「会議?」
「クリスタルキングダムのホラー伝説だよ」
「ホラーですか…」
「まあ、聞くだけでもええわ。じゃあ、始めるから灯を消してください」

そう言うと部員の1人が灯を消した。

すると人魂が、現れた。

「なんなんですか?これは」
「部長の雰囲気作り。たまに本物の人魂も来るよ」
「なんだか不気味ですね」
「でも、興味津々じゃない。オバケちゃん」
「……。だってこういうこと初めてだから」


すると、雅也はこう言った。

「今日は、このスクールの自習室の肖像画の話やで。実はあの肖像画は、昔チャールズU世、つまり俺のご先祖様の右目に取り付いた霊なんや。それでな夜になると独り手に歩き出しては、居残りしている生徒を連れては二度と元の世界に帰らせてくれへんのや。だから、あの自習室は夜7時までには絶対閉められるんよ。しかし、中には恐いもの見たさな生徒もおったらしく、わざわざあの肖像画の霊を見に行った奴もおる。その日な、俺のこれまた先祖様のハルV世を連れて行こうとしてんよ。なんとかハルV世を連れ戻したけど、それ依頼ハルV世は自習室に行かんようになったわけや」
「なるほど…。つまりチャールズU世に関係する者のみをさらっていたわけですね」
「すごいよく分かったね。オバケちゃん」
「これぐらいのことは、分かります。でもこの話を誰から聞いたんですか部長」
「これは、俺とバーベラがオカルト研究部の一環として、自習室に向かった時に、俺のみにその肖像画が反応したからや。どうやら人を選んでるなと思って国立図書館のオカルト本で調べたら『トニー王族の血筋のみ襲う』と書かれてたんや。だからオバケが行っても無駄やで?」
「いや…僕もトニー王族の血は繋がってます」
「そうか」
「でも、誰がトニー王族の子だったかまでは」

するとバーベラが、和純にこう言った。

「オバケは高貴な血筋だな」
「バーベラさん?」
「トニー王族の血は、紅龍の血が流れているしな」
「紅龍?聞いたことがあります。確か天空の世界に住んでいると…」
「ほう、オバケは天空の世界を信じているんだな」
「バーベラさんは信じてないんですか?」

するとバーベラはこう言った。

「私も信じている。しかしこのオカルト研究部以外の生徒は誰1人信じちゃいない。そのことを話したら、馬鹿にされたしな」
「俺も信じてるで。かつてドラゴン達の世界があったからな」
「ここの部の皆さんは信じてるんですね。実は僕その世界に行ったことあるんです」
「え〜!?」

和純以外の一同が声をあげて驚いた。

「それこそ信じてもらえませんよね」
「いや…それはすごいぞ。仮説が確信になった。で、どんな世界だったんだ?」
「龍達がいて、そういえば人間の王様がいました」
「あのレバインは存在してたんやな」
「なぜ彼の名前を知ってるんですか?部長」
「レバインは、暗黒戦争で孤児になった、俺の遠い親戚やし。生きているのか定かじゃなかったからな」
「でも、レバイン国王にはもう来てはいけないと言われました」
「確かにな。レバインは人嫌いやしな」
「人嫌いなら女の子をそこに住ませませんよ」
「女の子?その子可愛かったか」
「あのですね。それは8年前の話ですから覚えてません。でも、銀髪が印象的でしたね」
「確か…カール王様の娘も銀髪やったけどな」
「瑠宇には関係ないと…」
「この話は、あんたの家で詳しく聞くわ。バーベラ以下の部員は談話しててええから。鍵はバーベラ頼んだで」
「はい」

そう言うと、和純と雅也は地下室から出た。

「結構楽しい人達でしたね」
「根はみんな明るいんやけど、魔法使いやさかいちょっと不気味なオーラがあるんよ。ちなみに俺のジョブは『魔法剣士』」
「僕は『吟遊詩人』です」
「ますます気に入ったわ。で、今日なぁあんたんこと泊まらせてくれへん?」
「いいけど…。幸次さんは?」
「親父は忙しいし、今俺ブレムスで一人暮らししてるから、ちょっと淋しいんやわ」
「分かった」
「それと衛さんにも会いたいしな」
「うん」

2人はクリスタルキャッスルに向かった。

そして、城に着いた。

「クリスタルキャッスルも立派やわ。あんたの家やもんな」
「でもトニーズキャッスルだってすごいお城だと聞いたよ」
「大したことあれへん。とにかくお邪魔します」
「うん」

2人はメインストリートに入った。

「なんか出迎えとかないのん?」
「一応言っておくけど、僕がジュニーY世の第一王子とはここの人達は知らないんだ」
「どうして?」
「………理由は僕の部屋で話すよ」

そう言うと、2人は5階までエレベーターで上がった。


そして和純の部屋に入った。

「えらい地味な部屋やね」
「あんまり派手なの好きじゃないから」
「で、言わない理由は?」

和純は間を置いてこう言った。

「僕は、ジュニー王族とデーモン一族の間に生まれた、いわゆる混血の人間なんだ」
「デーモン一族?まさかあのデーモン一族の子?」
「うん。母さんがミスティV世なんだ」
「なるほど。まさか、眼鏡を掛ける理由や偽名で通ってる理由はそれが原因で、何かされたからか?」
「鋭いんだね雅也。その通りだよ僕は8歳のとき、集団リンチをされた」
「それであんなに素顔を隠してたわけやな。でも、俺は血筋とか気にせぇへんから、眼鏡外して?」
「…ぅん」

すると和純は眼鏡をゆっくりと外した。

「青い瞳が綺麗や」
「ありがとう」
「それに前髪ピンでとめていいか?」
「…うん」

和純が頷くと、雅也は和純の前髪をピンでとめた。

和純の眉毛は整っていて、また鼻はすっと伸びているし、瞳は深い海のような色で、口許はキュッと閉められている。

(こいつの素顔ほんまに綺麗やわ。でもトラウマのせいで素顔を隠してしまったんやな)

「やっぱり和純は別嬪さんやわ」
「別嬪?」
「えっと…綺麗っていう意味やで」
「そうなんだ。それと…」
「カール王の娘の話やったな。その娘えらいやんちゃでな、いつも勝手に城から出て行くから、カール王は困っていたんだ。それでな、ある日カール王がその娘を探したら、神隠しにあったかのようにその子が消えたんや。しかも未だに見つからんのやて」
「その子が行方不明になった年は?」
「3歳やわ」
「なるほど…瑠宇は拾われたと言っていたが」
「その娘も瑠宇っていう子やったで?」
「まさか、僕が会った瑠宇は、カール王と弥生王妃の娘だったの?」
「かもしれんな。このことは彼女は知ってたん?」
「いや、名字すら知らなかった様子だよ」
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